タングに会いに来ました!
はじめに
前回の観劇で見事にタングに心を撃ち抜かれてしまい、今回の観劇に至るまでずーっと『ロボット・イン・ザ・ガーデン』のことを考えていました。それくらい中毒性がありましたし、自分にとって心揺さぶられる作品との出会いになったわけです。
そんなわけで無事にチケットを確保できて、今回は前回とは違うタングペアでの観劇が叶いました!そこも含めて色々と確認したいことや知りたいことがあったので、凄く充実した観劇もできたと思います。
天気も晴れていて観劇日和!そして飯田達郎さんをはじめ俳優の方々も何人かいらっしゃいました。ロボットも相変わらず完売状態が続いていますし、こうしてコロナ禍でも無事に公演が行われることにも観に行けることにも感謝です。
そんなわけで今回は原作も読み終えた状態での観劇となったため、原作との違いも含めて気付いた点や感じた点などをレポートしていこうと思います!
総評
全体の感想です。
前回はダンサーさんが2人欠けた状態での公演でしたが、今回は全員揃っての公演ということで舞台のエネルギーが凄まじかったです。正直私には前回の欠員をどうやってフォローしていたのか気付けないくらい、全然違和感がありませんでした。そこも含めて今回ようやく完成形を観ることができて嬉しかったです。
そしてタング以外のキャストは全員シングルですが、皆さん変わらず素晴らしいお芝居や歌やダンスで魅了してくださっていて疲れも感じさせませんでした。むしろ前回よりブラッシュアップされて、お芝居の部分で深みが増していたように感じます。何よりタングがペア変わるだけでこんなに舞台全体の印象も違うんだという発見があって、とても楽しく観劇ができました。
座席も今回と同じく8列センターで全体を見渡しやすい席でした。ロボットは舞台美術も美しいので、このくらいの距離感で観るのが一番綺麗なんだろうなと思います。周辺の客席環境も悪くなかったですし、安心して観劇に集中できたのも嬉しかったです。
全体的にもよりレベルアップしたRIGだったと思いますし、たくさん泣いたしたくさん笑ったしで凄く充実した観劇ができました。観ることができて本当に良かったです。
キャストの感想
気になったキャストの感想を書いています。
ベン:田邊真也
前回観たときも原作を読んでみてもそして今回観劇してみても、やはりベンは田邊さんにしか演じられないキャラクターだなと思いました。それくらいお芝居も絶妙で雰囲気もバッチリで、ダメ男から人間として男としてパパとして成長していく姿も、その変化が自然で凄くかっこよかったです。
柔らかい物腰でちょっと立場的にも人間的にも弱いけど、優しくて温かくて気付いたらその屈託ない笑顔に魅了されてしまうのも説得力バツグンでした。エイミーがベンじゃないとダメって言うのも凄く分かります。田邊さんってこういう男性を演じるの本当に上手ですね。
そして前回よりもお芝居により深みが増していて、語尾が強くなっている部分があったり声のトーンが真剣っぽくなっていたり…と変化がありました。それによってダメ人間らしさは本当に最初のシーンだけになって、旅の途中でのタングとのやりとりはまさに親そのもの。早くも人間として成長していて、タングに対して子供というより1人の人間として向き合っている印象がありました。人やロボットと接していく中でベンの人格がどんどん変わっていく様子も、そういう喋り方や声のトーン、お芝居でしっかり表現されていてさすがでした。
また田邊さんは表情も多彩。それこそ子供みたいにコロコロ表情が変わりますし、驚いたり笑ったり泣いたり慈しんだり…色んな顔を見せてくれました。特にエイミーと電話していて、エイミーが他の人とも付き合ってみると言ったときの打ちひしがれたような表情と今にも泣きそうな弱っちい表情、それから強がる笑顔…ここの田邊さんベンの表情がどれも好きでした。
もちろん旅を終えて帰ってきてからの男らしい田邊さんベンも大好きです。序盤の頃の無気力な表情とは打って変わって瞳がキラキラしていて、自分の気持ちを正直にエイミーに伝える姿が本当にかっこよかったです。ボニーが生まれて顔を覗き込むときのパパの一面も素敵でした。
本当に田邊さんベンはどの瞬間を切り取っても魅力的で、観るたびにタングだけでなくベンにも愛しさが募るようになりました。今回も凄く素敵なお芝居で私たちを一緒にタング修理の旅へと連れて行ってくれて感謝です。
タング:斎藤洋一郎/長野千紘
今回のお目当てである洋一郎さん&長野さんペアのタング!うぶちゃん&渡邊さんタングとは全然印象が違っていて、まったく別物のタングになっていて凄く面白かったです。
うぶちゃん&渡邊さんタングはお芝居も歌もメインボイスがうぶちゃんで、時々渡邊さんも喋ったり歌ったり…という感じだったのですが、洋一郎さん&長野さんペアのタングはお芝居のメインボイスは洋一郎さんで歌のメインボイスは長野さんというように担当分けがされていました。だからある意味ではペアとしてのバランスが均等になっていて一つの見せ方としてアリだなぁ…と思いました。
ただタングの声が普通に喋っているときと歌っているときで変わるということに少し違和感を覚えてしまい、ちょっと慣れなかったのも事実です。どっちがタングの本当の声なんだろう…という風に混乱してしまうので、その点ではうぶちゃん&渡邊さんペアのようにメインをどちらも同じ人がやるほうが自然かもしれません。これはもう個人の好みもあると思います!
そして洋一郎さんボイスのタングはより男の子っぽさが強調されていて、より機械らしさが強調されていました。うぶちゃんタングの場合は物語が進むにつれて声に抑揚や感情がこもるようになって凄く人間らしくなっていったのですが、洋一郎さんタングは喋りは滑らかになるものの声のトーンは割と同じで人間というよりもまだまだロボットらしい印象がありました。なのでタングがロボットであるということを最後まで忘れずにいられます。うぶちゃんタングは最後のほうなんか本当に人間らしくなるので、タングがロボットであることをつい忘れてしまいそうになってしまうんですよね。ここも大きな違いだったと思います。
と言いつつも、個人的にはうぶちゃんタングの感情がこもった喋り方が凄く好きだったので洋一郎さんタングの喋り方は逆に新鮮でした。あとは男性ボイスと女性ボイスとの違いとして、声の柔らかさや温かみという部分でも女性のほうが表現しやすいのもあってか、うぶちゃんタングのほうが愛嬌があるように感じました。うぶちゃんタングのイヒヒヒヒっていう高笑いも好きだったので、洋一郎さんタングの特徴的な笑い方も新鮮でした。
くわえてうぶちゃんはタングの心の揺れ動きに合わせてご自身も表情が柔らかくなったりしていたのですが、そこは洋一郎さんは表情において大きい変化もなかった気がします。長野さんは笑っていたりしたんですけど、これも男女の違いなのかなぁ…?
だから全体を通して、人間とほぼ変わらない成長を遂げるうぶちゃんタングと心を持って感情が生まれるもしっかりロボットらしさが残る洋一郎さんタングとで、どっちにもそれぞれの魅力がありました。当然ですけどタングの演者さんが変わるだけで物語全体の印象も大きく変わるし、見え方感じ方も大きく異なってくると思います。私もどちらのペアも観ることができて2パターンのRIGを楽しめましたので、機会さえあれば両方のタングを観てみて違いや好みを見つけてみてほしいです。
エイミー:鳥原ゆきみ
ゆきみさん今回も顔が良かった…美しすぎて普通に見惚れました。観れば観るほどその美しさに圧倒されまくって気付いたらめっちゃ好きになっています。ゆきみさんのエイミーは綺麗なだけじゃなくて可愛らしさもコミカルさも持ち合わせていて、気高いように見えて親しみやすい一面もあるのでそのギャップについやられてしまいました。
ちなみに原作を読んでいて舞台版と印象が一番大きく変わったのはエイミーでした。原作のエイミーは結構気高くてやや傲慢な印象があるので、舞台版ではかなりマイルドに描かれています。そこも含めて舞台版のエイミーは人間的にも可愛らしくて愛しさも感じられて、ゆきみさんが演じるにはピッタリだと思いました。
1幕冒頭は田邊さんベンの気弱なお芝居と掛け合わさることでよりゆきみさんエイミーの強さやイライラが強調されていますが、基本的には凄く優しい女性なんだなぁ…と物語全体を観ていると気付かされます。ベンと電話しているときも「あなたはどうなの?」って必ずベンの近況を聞きますし、ベンがどんどん前を向いて進んでいくのをちょっと嬉しそうにかつ寂しそうに聞いているのが印象的でした。あとはTwitterのレポを読んでいて気付かされましたが、言い合いをしたその日の夜もちゃんとベンの分の飲み物を買ってきてあげていて、根は優しいんですよね。良い奥さんです…。
そうやって一度別れて離れた時間があったからこそ、失ったベンの存在を再認識させられてやっぱり彼が好きと気付いて戻ってくるのも可愛くて好きでした。ここで「あなたじゃないとダメなの…」ってベンに想いを告げるときのゆきみさんのお芝居がめちゃくちゃ好きで、想いが溢れて涙声になりながら気持ちを伝えるのが凄く健気だし泣き出しちゃうお芝居がリアルで上手。最高に好きです。
あとゆきみさん関連だと、2幕の「ギフト」で出てくる謎の白い翼は今回観てみてもやっぱり謎でした。ゆきみさんだから似合うけど、あの演出はマジで謎すぎるし笑っていいのかどうなのかも分からない際どさでネタにもしづらくてどう反応したらいいか分からないっす(笑)そして同じく2幕の「ラストリゾート」ではゆきみさんがエイミー以外の役で出演してて「ゆきみさん!」ってなりました。マジでロボット豪華すぎ…(笑)今回はエイミーに関して色々な発見があって凄く観ていて楽しかったです。
ボリンジャー:野中万寿夫
万寿夫さんが大活躍すぎて本当に凄いな…と終始思わされたのですが、ボリンジャー、ベンのお父さん、機長、警察官、暴走族?、街の人…まだまだありますよね。どのシーンを観てもだいたい万寿夫さんがいるって訳わからなくて発見するの楽しかったです。
その中でも2幕冒頭の「TOKYO ELECTRIC TOWN」ではめっちゃノリノリで全力で踊っている万寿夫さんが観られてビックリしました。前回はあゆ美さんとか萌さんとかに気を取られていて全然観られていなかったので、今回初めてここで踊っている万寿夫さんを発見して大興奮でした(笑)あんなに踊っている万寿夫さんを観られるのって今じゃもうこの作品だけなんじゃないでしょうか…。
そういう明るい万寿夫さんの姿も観られるだけに、ボリンジャーでのお芝居との振れ幅が本当に凄くてそれも驚きます。街の人(本城さん)に呼ばれて万寿夫さんボリンジャーが登場してくるときに、なんて喋ってたか忘れましたがボソボソとぼやきながら登場してきたのは笑いました。オフマイクという扱いなのかな…それとも台本にある台詞なのかは定かではありませんけど、まるで台詞とは思えないくらい自然なぼやき方だったと思います。万寿夫さんはどの演目でもそうですが型にハマらないお芝居をされるので基本フリーダムな印象があって、万寿夫さんご自身が楽しんでお芝居をされているのがこの作品でもしっかり伝わってきました。
悪役も演じれば主人公のお父さんも演じて機長、警察官とかも演じて…と色んな役になれるのってきっと俳優さんからしても楽しいんだろうなと思います。万寿夫さんクラスの俳優さんだからこそなおさら。もちろんその中でやっぱりボリンジャーは万寿夫さんの本領発揮で、一気にダークな世界観に引き込む歌声が素晴らしいですし思わず身震いがしそうになりました。一見優しそうなおじいさんから悪役になっていくその一瞬の空気感の変化も上手でしたし、やっぱり万寿夫さんみたいな実力派の俳優さんがいると物語が締まるなぁ…と実感しました。
カトウ:萩原隆匡
萩原さんも本当に大活躍…。1幕冒頭から腹の底から鳴り響くような歌声で歌う「Rise!」で引き込まれますし、歌声も安定していて何より上手で聞き惚れてしまいました。ちょっと怪しげな雰囲気で敵なのか味方なのかも分かりませんけど、胡散臭いキャラクターを演じるのも上手なんですよね。そのくせにスマートでかっこいいから困ります。
そんな中でやっぱり特筆すべきはカトウです。誠実で真面目でありながら、ロボットやアンドロイドに対してしっかり敬意を払っている姿も凄く印象的でした。タングに触るときに「ごめんね」と声をかけたり「偉いね」と褒めていたりして、そのときの萩原さんカトウの声色が凄く優しくてまるで子供に接するパパみたいで素敵でした。ちょっとした声色の変化や表情が優しくなる感じから、カトウがいかにロボットを愛しているのかが伝わってきましたし、お芝居がとても丁寧で好きにならないわけがなかったです。
他のシーンでは力強い歌声を披露したりちょいワルなお兄ちゃんを演じていたり「マッスルゥゥゥ」とか言い出しちゃうチャラい系のお兄ちゃんを演じていたりしただけに、カトウのお芝居は凄く優しくて温かみもあって誠実で…とこうやって演じ分けがしっかりできているのがただただ凄いなと思わされました。実際萩原さんはあらゆるお芝居の引き出しを持っていらっしゃる方なので、その実力がすべて発揮されています。本当に凄いです。
そして、まるで人間のように感情を見せるタングとそんなタングに心を動かされているベンを見ながら歌う「絆を信じて」は号泣ソングでした。前回は萩原さんと田邊さんのデュエットすげえ!という興奮で中身をあまり考えずに観てしまっていた部分もありましたけど、今回は全編通して物語をしっかり理解していたからこそカトウが優しく語り掛けるように歌うこのナンバーの意味がグサグサと胸に刺さるようでグッと来ました。萩原さんの歌声が凄く優しくて温かくて、それでいながら田邊さんとのハモリが凄く美しくて一気に引き込まれてしまいます。これを聴くだけでもチケット代を払った価値がありました。
リジーの恋人に関する話をベンから聞いたときの反応も可愛かったですし、最後にリジーと幸せそうに揃って出てきたのも良かったね~~~という気持ちで観られましたし、カトウも報われて良かったです。この役は萩原さんにしか演じられませんね。歌えて踊れてお芝居も上手で…と唯一無二の俳優さんだなと再認識させられました。
リジー:相原萌
萌さんもマジで大活躍すぎてヤバイですね。個人的にはCAとマイクロンシステムズの社員がツボです。「TOKYO ELECTRIC TOWN」のアイドルを演じているときの萌さんも可愛かったですし、要は全部好きでした。アイドルのときの機械音が混じったような歌声も聴いていて凄く面白いし可愛いし、ダンスも凄くキレッキレだし…魅力的でした。
マイクロンシステムズのアンドロイド社員のときは下手側で凄い体勢になりながらパソコン?をいじっている姿があまりにも印象的でちょっと目を離せなかったです(笑)高速でタイピングしているかと思えば、その直後にコロンか何かをつけたのか知りませんけど首回りに手を這わせていたので何してたんだろうな~と気になりました。ロボットに限った話じゃないですけど、こうやってメインが喋っているときにサンボの人たちが何かしら面白いことをやっているときが結構あるのでマジで目が足りないです。ロボットは特に。
そしてリジーは今回萌さんが演じるキャラクターの中でも凄く親しみやすい女性で、博士でありながら良い意味で全然博士らしくない気さくさも魅力だなと思いました。萌さんのクシャっとした笑顔が親近感と愛嬌を感じさせるのもあるかもしれません。声色もマイクロンシステムズの社員のときとは大きく違っていて、優しさと温かさと柔らかさがあって、やっぱり演じ分けが凄いなと感じました。
そんなリジーですが、凄く素敵な女性であるだけに知り合ったばかりのベンに対して好意を持ってかなり積極的になっているのが結構気になるポイントなんですよね。カトウのことが好きだった(現在進行形かも?)はずなので、ベンのことは男性として意識するほどでもないんじゃないかなぁ…と思うのですが、ちょっとここの描かれ方はなかなか理解が難しいところです。ちなみに原作だとベンとリジーは一夜限りですが関係を持っちゃうので、舞台版では未遂で終わっててホッとしました…(笑)
非常にフレンドリーだからこそ距離感を見誤ってしまいそうな危うさがあるっていうのは萌さんの気さくな感じの雰囲気やお芝居からも伝わってきましたし、だからこそ間違いを起こさずにカトウと無事に結ばれたのは安心しました。最後にカトウと一緒に登場してくるときの幸せそうな萌さんリジーも凄くキュートで可愛かったです。
ブライオニー:加藤あゆ美
改めてあゆ美さんの歌声とダンスに酔いしれた3時間でした。ブライオニーとしての姉御肌…というよりはお母さんみたいに包容力で溢れたあゆ美さんも凄く素敵なんですけど、個人的にはサンボとして登場してくるあゆ美さんがたまらなく好きだなと感じるシーンが多かったです。
1幕の「サンフランシスコ AM4:00」はしっとり系バラードで、あゆ美さんの厚みと色っぽさがある歌声に魅了されてしまいます。ちょっと気だるげな感じの歌い方もたまらないですし、あゆ美さんってこんな歌い方もできるんだ~と新鮮な気持ちで聴けました。かと思えばその直後には「ラブダイバー」で激しく踊っているので、そのギャップがマジで凄い!めちゃくちゃかっこいいですし、ダンスが他のダンサーさんに見劣りしないくらいキレッキレで思わず目で追ってしまいました。
あとは2幕の「TOKYO ELECTRIC TOWN」でもバリバリに踊っていらっしゃってて本当にかっこいいです。ここのシーンでの髪の毛を一つ縛りにして首元がスッキリしていて、シャツとパンツスタイルの爽やかなあゆ美さんもたまらなく好きでした。それにあゆ美さんの笑顔って凄く優しくてなんか観るだけで心が絆されちゃうんですよね。不思議な魅力を持った人だと思います。
そんな感じでサンボとして登場してくるあゆ美さんはどのシーンにおいても凄く魅力的で、ひたすらかっこよくてビビってしまいました。こんなにガッツリ踊っている姿も最近ではなかなか観られないですし貴重ですね…。
もちろんブライオニーのお芝居や佇まいも大好きです。原作では結構ブライオニーってかなり強めで明るいイメージだったので、それが若干マイルドになった感じがまさに舞台版のあゆ美さんブライオニーなのですが、それこそあゆ美さんのお母さんみたいな包容力が活きているんだと思います。頼りになるし相談にも乗ってほしいし励ましてほしいし、エイミーがブライオニーに助けを求めてしまうのも納得でした。この作品を観るとどんどんあゆ美さんのことが好きになっていきそうです…凄く魅力的な女優さんの1人だなと今回再認識できました!
観劇の感想・考察
気になったポイントの感想などを書いています。
原作と舞台版の演出の違い
2回目の観劇にあたって原作を読んでおいたので、今回は原作との演出や設定の違いについても考えながら観劇できました。原作をいざ読んでみると結構大人向けというか実際に男女の恋愛のもつれとしてはかなりリアリティのある内容になっていたので、それが一番の驚きでした。
たとえばベンとエイミーはすれ違いも多いし関係が冷え切ってはいるものの、時々お伺いを立てて夜の営みに至るといった説明があったり、先述したようにベンとリジーが一夜限りで関係を持ったり、エイミーが妊娠したときにお腹の中にいる子供の父親がベンとロジャーのどちらか分からない(要するにエイミーがロジャーと関係を持っている)ということだったり…。こうした描写はいずれも四季の舞台版演出では省かれている、または改変されてなかったことにされているわけです。一応四季版でもラブホのくだりは描かれましたけど、ベンやエイミーに関係するところはかなりマイルドになっています。
原作だとエイミーが妊娠してからの、いわゆる舞台版の後日談にあたる部分がかなり詳細に描かれているのですがそこを読む限りだとかなりロジャーがクソ男なんですよね…。それもあってエイミーがロジャーに対して冷めてしまって、ベンの家に戻るけど決して復縁はしない…というちょっともどかしい距離感で終わっています。リアルな世界で考えたときに元夫婦の形としては凄くありふれた話だろうし、そういう登場人物の関係性の描かれ方も本当に凄くリアルなので読んでいて結構モヤモヤする部分も多かったんです。
だからこそ、舞台版はタングというキャラクターを通してベンとエイミーの描かれ方も大きく変わって凄くスッキリかつホワイトになっていたので、個人的には凄く良い改変だなと思いました。前回のレポで、関係が冷え切っているのに子供できるのか…と疑問を投げかけることを書きましたけど、それも原作を読んだ上で観ればこの2人がそういう感じなんだというのも理解できました。
舞台は3時間という制約があるためどうしてもコンパクトに描かれていますし、だけど観ていてまったく違和感のない切り取られ方でまとめられているので凄く自然なのですが、ん?と思うところは原作を読んで補完したほうがいいかもしれません。
あとは舞台版だとベンもエイミーも何だかんだ言ってお互いがお互いを凄く愛しく思っていて、何度も連絡を取り合いながら自分の心の中にある相手の存在の大きさに気付かされる描写もたくさん描かれているので、最後に復縁するという結末もすんなりと受け入れられました。「家族」の描かれ方として凄く温かくて優しくて、日本人が好むようなお話に仕上がっているのもさすがだと思います。これまでファミミュで心温まる話を作り出してきた四季だからこその演出だと思いますし、ロボットの魅力的なテーマともいえるでしょう。私的には原作よりも断然舞台版のほうが好きでした。
「家族」になるということ
この作品において「家族」というワードがたくさん登場してきます。ベンとブライオニーと両親、ベンとエイミー、ブライオニーとデイブ、そしてベンとタング。あらゆる関係性の中で築かれる家族の形の多様性と、「家族になる」ということの意味を色々と考えさせられる作品だなと思いました。
エイミーは「ベンと家族になりたかった」と言っていますが、ここで言う「家族」って子供を授かって自分たちがパパとママになることを指しています。ベンとの愛が育まれなければ成り立たない家族の形だとは思いますが、結構ここのエイミーが求める「家族」って直接的だなぁ…とも思ってしまうんですよね。それはベンとタングの関係性の中で生まれる「家族になりたい」というベンの気持ちが見出されたときに気付かされることでもありました。
タングは人間でもなければ自分が生み出したロボットでもありません。だけど、タングと出会って一緒に旅を続けていく中でタングに対して愛情が芽生えていきます。そうして、物語終盤で「君と家族になりたい」と打ち明けます。タングもまた「タングなるよベンと家族に」と答えていて、ここで描かれる家族の形は必ずしも男女のそれではありませんけど1つの「家族」として提示されました。人間とロボットも家族になれるんだ…という絆の描かれ方も含め、大号泣するポイントでもあるんですけど、これを踏まえた上で終盤にベンはエイミーと再会して「君と本当の家族になりたい」と告白をします。
ここで言う「家族」ってエイミーの本来求めていた意味も包括してはいるだろうけど、きっともっと大きな部分を指しているんだと思います。エイミーと手を取り合うこと、信頼し合うこと、お互いが同じ方向を向くこと、支え合うこと、そして愛し合うこと。2人の間でしか築けない絆ができることでたとえ血は繋がっていなくとも本当の「家族」になれるんだということを提示されたような気がしました。2人がそのことに気付いて再び結ばれたときに、神様からのご褒美とでもいうようにエイミーの妊娠発覚です。ベンとエイミーは神様に試されていたのかもしれませんね。非常に温かい物語だなと思います。
『マンマ・ミーア!』でもドナとソフィ、ハリーとその連れ合い・ジャックのように多様な家族の在り方が描かれていました。家族って絶対に親がいて子供がいて、というありふれたものばかりではないんだなということに気付かされましたし、「この人と家族になりたい」と思える人に出逢えるってとても素晴らしいことなんだと再認識できました。ベンとエイミーは遠回りをしましたけど、ちゃんと向き合ってお互いの存在の大切さに気付けたからこそ「家族」として再スタートできたわけです。もちろん再スタートするためには一度離れる時間も必要だったし、ベンがタングと一緒に旅をすることも必要でした。なるべくしてなった結末だったなぁ…という物語のまとまり感に改めて感動しました。だから『ロボット・イン・ザ・ガーデン』は最高なんです…。タングの可愛さも魅力の1つですけど、ベンとエイミーの関係性の描かれ方も私はめちゃくちゃ好きです!
結局何が言いたいかというと、ぜひこの作品を観て「家族になる」ってどういうことなんだろう…って考えてみてほしいなと思いました。ここに書いたことはあくまで私の解釈ですし、きっと感じ方は人それぞれです。「家族になること」はきっとテーマの1つでもあると思うので、その部分についても色々考えながら観劇してみると凄く楽しいんじゃないかなと!
まとめ
今回もかなり長くなってしまいましたが、いやもう大号泣でした…。1幕も2幕もメインテーマの「ロボット・イン・ザ・ガーデン」のイントロが流れ出しただけで涙がぶわっと溢れてきてしまって、心の琴線に触れるナンバーだなと気付かされました。歌詞も素敵ですし、こうやって聴くだけで泣けてしまう曲ってここ最近なかなか出会えなかったので我ながらビックリしています。
もちろん田邊さんの優しい歌声と表情、タングの可愛らしさも相まって、よりこの2人に情が湧いてしまうんですよね。本当に心温まるお話で、2回目を観てもっと好きになりました。ぜひ四季ちゃんは早くCD化と円盤化を進めてほしいです。
そして2回目ではまだまだ理解しきれない部分だったり見逃しているポイントもたくさんあると思うので、公演がやっている間はできるだけ観に行けたらいいなぁ…と思います。せめてあと3回は観たいな。原作も続編を読み進め、何度も観劇して、もっと作品への理解を深めたいです。それくらい私にとってはドンピシャな作品でした。
またいつか、観に行ける日があればタングに会いに行きたいと思います!
コメント