5年ぶりの松たか子さんのお芝居!
はじめに
『アナと雪の女王』にハマったことがきっかけで松たか子さんに再燃した2020年。なんとそしたらドンピシャで松たか子さんが舞台に出演されると知って、絶対に行きたいと思いチケットを確保しました。松たか子さんを舞台で拝見するのは2015年の『かがみのかなたはたなかのなかに』以来です。ちょうどその公演も、今回のメイン4人が出演されていたので、そういう部分も含めて今回の公演がとても楽しみでした。
内容が非常に昨今の日本の状況を扱っていて面白いなと思いましたし、ソーシャルディスタンスやマスク、フェイスガードを上手く利用した作品だなということで興味があったのも事実です。
何はともあれ、まずは無事に幕が開いて本当に安心しました。なかなか松さんを生で拝見する機会もないもので、今回の観劇のチャンスは絶対に潰したくないな…という気持ちがあったのが正直なところでした。だからこうして無事に観劇できて、本当に嬉しかったです。そして松さんのお芝居を拝見できて、本当に幸せでした。
久しぶりの新国立劇場。駅から直結なのであまり地上を出て出歩く必要もなくて夏場でも快適です!
今回は初見なので深いレポはあまりできませんが、松たか子さんを中心に全体的な部分や自分が感じたことをしっかりレポしていこうと思います!
総評
全体的な感想を書いていきます。
前回の『かがみのかなたはたなかのなかに』とはそれぞれ異なる配役でしたが、それぞれの良さを活かした配役で非常に良かったと思います。個人的にタナカの妻・ツマコ役を演じるのが女性じゃなくて背の高い男性っていうのが本当にずるい(笑)前回の『かがみの〜』の長塚圭史さん演じるコイケの再来かと思いました。配役がずるすぎる。
そして松たか子さんをひたすら堪能できる作品だったのも驚きで、構成や演出も含めて非常にすんなりと狂言回しの松さんが物語の中に溶け込んでいくのも観ていて面白かったです。大人だけでなく子どもに向けた作品でもあるので内容も決して難解ではないし、だけど今のご時世だからこそ考えさせられることも多くて、そういった見せ方の秀逸さと伝えたいテーマの重みや深みをヒシヒシと感じることができて楽しかったです。作品として、凄く面白いなと思いました。
そして休憩なしの全1幕構成なので、非常にコンパクトで中だるみすることもなく最初から最後まで緊張感をもって観劇できたのも好ポイントでした。
座席は10列が最前列なので実質8列目。センターブロックのほぼ真ん中だったのもあって、とても観やすかったです。全体を広々と使う舞台なので、近くで観るよりもこれくらいの位置で観るほうが作品的には面白そうだなと感じました。
そして笑いも起きるし客席のウケも良かったし、そういった相乗効果でより観劇を楽しめました!今回観に行くことができて本当に良かったです!
キャストの感想
今回はメインの4人のキャストの感想をざっくりと書いていきます。
サルキ:近藤良平
相変わらず独特でクセのある喋り方をされていたので遠目からでも1発で分かりました(笑)ちょっと皮肉的なんだけどどこか憎めない喋り方は、本当に聞けば聞くほどクセになります。
そしてこのサルキにはちょっとした秘密があり、途中までそれを感じさせない佇まいでいることの自然さはさすがでした。近藤さんって前作でも振付を担当されていましたが、なかなかダンスを観る機会がなかったので今回踊っている姿を観られたのがとても新鮮で面白かったです。ダイナミックで力強く全身を使ったダンスは、当然ながら周りのダンサーさんにも見劣りしません。非常にかっこよかったです。というか、近藤さんもっと出演時間あるのかと思ったらほぼ中盤以降だったのでビックリでした(笑)
タナカ:首藤康之
首藤さんは真面目でお堅いお芝居の印象があるのですが、今回のタナカ役もそんな感じで非常に生真面目な男性の印象がありました。誠実だけどどこか何を考えているのか読み取りにくくて、少し近付きにくい感じがあって。それが首藤さんご本人の雰囲気そのものなのか、役作りによるものなのかは分からないのですが、不思議な雰囲気を放つ人だなぁ…と思います。
今回首藤さんについて特筆すべきなのが、イヌビト病に感染してからの動きです。バレエ団にいらっしゃるだけあって、動きがとにかくしなやか!手足の伸ばし方にしても美しくて、非常に軽やかで、近藤さんと同じくダンサーさんたちの中に普通に溶け込んでいて、思わず目を惹かれてしまうほどでした。まあお芝居に関しても格別上手、というわけでもないのでやはりどちらかと言えばダンサー寄りな方なんだなぁ…と今回観ていて強く感じました。
でもあまりに動きがしなやかで軽やかなので、犬というよりも猫って感じでしたけどね(笑)だけどこうして前作であまりダンスを披露されていなかった方々が本領を発揮する姿を観れて、個人的には大きな発見でしたし新たな一面を観ることができてとても楽しかったです!
ジョシュモト:長塚圭史
圭史さん全然出てこないなーって思ったら、物語の中盤以降の出番でしたわ!そして出番がそんなに多くないにも関わらず美味しいところを全部持っていくのずるい!圭史さんが出てきた瞬間に一気に場の雰囲気がガラッと変わりましたし、物語にユーモアが足されて物語の重厚さが緩和されて、より身近な感覚で作品を楽しむことができたと思います。圭史さんマジでずるい(笑)
害虫駆除の助手役で、同じく害虫駆除の専門家役を演じる松さんとの掛け合いが非常に多かったのですが、お芝居をしているのかそれとも圭史さんの素がほぼ出ているのか分からないほど自然体な佇まいでした。結構おふざけ担当な役どころでもあるので、そういう部分で「演じる」というより「ありのままで笑いを取る」といった面も強いのかもしれません。しかし本当に凄く自然体で、今自分が観ているのが果たして演劇なのかお笑いなのか分からなくなるようでした。それくらい、圭史さんのお芝居って自然で不思議な魅力があると思います。
そしてジョシュモトという役柄が本当に面白すぎて、お腹痛くなりそうになるほど笑わせられました。間合いが上手いのか言い方が絶妙なのか佇まいゆえなのか、それとも全部なのか分かりませんけど、本当に笑いを取るのが上手だなぁ…と思います。もうそこに立っているだけで面白いってもはや才能だと思うんですけど、圭史さんは本当になんか面白い。真面目なお芝居に良い意味でアクセントを加えてくれる役者さんだと思っています。
と思えば、突然真面目にお芝居を始めるところもあるので、そこの落差に驚かされることも。掴みどころがなくて、非常に困惑してしまいます(笑)あと個人的に気になった部分としては、喋り方ですかね。先述した圭史さんの面白さってこういうところにも表れているのかなとは思うのですが、的確に台詞を喋って言葉をはっきりと伝えることよりもテンポと勢いを大切にされている印象がありました。だからこそ、その台詞の勢いとスピード感が結果として笑いに繋がっているのかな…なんて。そういうところが他のメイン3人と異なる点だったので、より圭史さんのお芝居が印象に残りやすいのかもしれません。
とにもかくにも、今回も長塚圭史さんはずるいです(笑)正直ずっと出続けていてほしいくらい、出番が凝縮されていてかなりインパクトがありました。とても面白かったです!
案内役・他:松たか子
正直『イヌビト』は松たか子さんを堪能するためにあると言っても過言ではないくらい、松さんがほぼ出ずっぱりでした!まさかこんなに出ずっぱりだとは思わなかったですし、歌もあればダンスもあって色んな役どころを演じることもあって、とにかく色んな松さんを観られました。最高にハイコスパな作品です…(笑)
松さんは案内役ということで狂言回し的な立ち位置です。客席に語り掛けるようにしながら物語の進行をしていきますし、あくまで「案内役」なのではっきりとしたキャラクターとして居続けるわけでもないですし、そういう点では「松たか子」として舞台に立ち続けているイメージでしょうか。他の人たちと同様、とても自然体で何かを演じるといった素振りを大きく見せるわけでもないですし、私たち観客と同じ立場として舞台の中に溶け込んでいる印象でした。
だけどふとした瞬間に物語の中に入り込んで登場人物の1人になりきる…その役の移行が非常に違和感なく、くわえてそういう役付きのお芝居になると案内役とはまた違った一面を見せてきて、もうひたすら松さんってマルチだよなぁと思わされました。本当に才能に溢れた人です…。
案内役以外には犬のプティ役を演じていましたが、犬の鳴き真似がめちゃくちゃ上手くてビックリしました(笑)松さんが愛犬家なのもあるのかもしれませんけど、特徴を捉えているし、まさか舞台上であんな鳴き声を出しているなんて思わなくてどれだけ凄いのこの人…と思いました。マジで凄い。
そして物語中盤以降からは害虫駆除の専門家・マツダタケコ役にもなりきる、というか、途中から案内役からマツダタケコ役にバトンタッチするような演出になります。ここの役の切り替えではかなりメタ的発言をして笑いを取っていました。そもそも「マツダタケコです」と名乗るだけでかなり笑いを取っていたので、間合いだったり言い方だったりも含めて人の心を動かすのが上手だなと思いました。そして狂言回しとして舞台に立ち続けていることに対する不満を漏らすといったメタ発言がかなり斬新でしたし、そのときのちょっとやさぐれた感じの松さんがとても可愛かったです。
それからやっぱり歌とダンスも外せません。稽古場のレポで歌うっていうのは書いてあったけど、まさかこんなに歌うの!?ってくらいたくさん歌ってくれました。相変わらず歌が上手い。それにちょっと踊ったりもしていてスキップもしていて全力疾走もしていて、かなりアクティブに動く松さんを観ることができて新鮮でした(笑)本当に色んな松さんを観れて眼福です。
あと思ったのは、松さんは滑舌が本当に良いので台詞が聞き取りやすいですし、松さんの声質的なものかもしれませんが凄く聴き心地が良くてすんなりと言葉が耳に頭に入ってくるんですよね。だから物語の案内役って凄く適役だなと思いました。物語を凄く理解しやすかったです。案内役は松さん以外には務まらなかったでしょう。本当に素晴らしい役者さんだなぁ…と改めて実感できました。そしてマジでたくさん松たか子さんを堪能できて最高に贅沢です…幸せでした!
観劇の感想・考察
気になった点を書いていきます!
出演者全員の在り方の面白さ
今回観ていて面白いと感じたのが、キャラクターの在り方でした。観るまではメイン4人とダンサー10人という構図をイメージしていたのですが、それぞれに配役があって、全員に見せ場があって、メインやダンサーという概念が見事に取っ払われた舞台の在り方で凄く面白かったです。
いつもは四季以外のお芝居って俳優さんに対する知識とかがないのでパンフを見ても誰が誰だか…っていう感じで分からないのですが、この作品は誰が何を演じたのかが分かるくらいそれぞれの役にしっかり見せ場があって印象に残るんですよね。それが凄く新鮮で面白かったです。
そしてラストで松さんと手を取り合うのがメインの他の3人ではなく、ダンサーさんの1人っていうところも面白くて。そういった、全員が同じ役者として舞台上で生きていることが非常に面白かったです。アンサンブルという概念が存在しない舞台ってなかなか観られないので、かなり刺激的でした。
このご時世に通じる伝染病をテーマにした物語
新型コロナウイルスに悩まされ続けている2020年。こんなご時世にこの作品を上演したことって凄く意味があるなと思いました。犬から人へ、そして人から人へ…という伝染病をテーマにした物語で、その根底には30年前の狂犬病があってそこと深く繋がっているのですが、それにしてもこのご時世だからこそ色々と考えさせられることが多かったです。
イヌビト病では、誰が感染しているかも分からなくて、自分が感染しているかどうかも分からないのが特徴でした。そして、大切な人を守るためには自分自身が感染されにいくしかないという救いようがない状況の中で、それぞれが決断をしていくのですが、その救いようのなさに打ちひしがれてしまいました。
もはや誰もが疑心暗鬼でいつ誰が感染していてもおかしくないし、大切な人がもしかしたら感染しているかもしれないし、常にビクビクと怯えたまま生きていくしかないという現状を皮肉的に描いていました。本当に皮肉的です。だからこそ、この物語の結末は凄く考えさせられました。
新型コロナウイルスがどこで生まれて、どのようにしたら、いつになったら消えていくのか…。そうしてウイルスがなくなる未来を考えてしまうくらいに、色々と悩まされました。その答えは正直今すぐには出てこないのですが、『イヌビト』を観て改めて伝染病の恐ろしさ、そして人間の恐ろしさを痛感しました。このご時世のこの作品を観ることができて幸せです。
まとめ
松たか子さん目当てで観に行きましたが、やっぱり今回も『かがみのかなたはたなかのなかに』同様いい意味で期待を裏切ってもらえて、観劇して良かったなと思いました。とても素敵な作品に出会えた気がします。
演出も斬新で面白かったですし、何より松さんの見せ場があまりにも多すぎて興奮がとまらなかったですし、コスパが良すぎる作品でした、マジで(笑)
あとは新国立劇場の中劇場って初めてだったんですけど、いい感じにコンパクトでとても観やすかったです。こじんまりとしつつも奥行きを活かした演出はゾッとしましたし、舞台という空間を存分に活かした物語も最高に面白かったです。本当に今回来て良かった!
次回は何もなければ14日に観に行きます!とにかく松さんを観れて幸せでした!
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