2020年11月14日マチネ 大人計画『フリムンシスターズ』




演劇全般
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ゆうき
ゆうき

初めての大人計画です!

日時:2020年11月14日マチネ公演
場所:Bunkamuraシアターコクーン
座席:2階BL列12番(コクーンシート)




はじめに

長澤まさみ×秋山菜津子×阿部サダヲと聞いて、ずっと観劇したいなと思っていた作品でした。まさみちゃんは『SING』で歌の上手さを存じていたし、秋山さんとサダヲに関しては一度でいいから生で観たいと思っていた俳優さんでもあったので、本当にキャストだけで考えても観ない理由がなかったです。

ということで観劇できるとしたら今しかないと思い、急遽チケットを譲っていただき観劇してきました。普段劇団四季の舞台しか観ていないのもあって、久しぶりに違う劇団の作品を観劇できたことが凄く新鮮である意味では楽しかったです。その中でもたくさんの課題があったので、そこについては後ほど触れていきます。

さて、場所はシアターコクーン。実は来るのが初めてでした。渋谷は自分の住んでいるところからも比較的近いので、アクセス的にはすっごく楽ちんでした。でもやっぱり劇場の作り的にも劇団四季の専用劇場を超えるものはないでしょうね…。特に今回私が座ったコクーンシートに関しては、後ほど書きますが、あまりオススメはできません。その辺も含めて、今回の観劇の感想を書いていきたいと思います。

では、その前に一応あらすじを簡単に…。

都市開発から取り残された西新宿の一角に建つ小さなコンビニで、店舗の真上の薄汚れた部屋に住み、夕方から朝にかけて働くちひろは、廃棄弁当を食べ、コンビニの店長と寝て、暇さえあればYouTubeで気に入りの昔のテレビドラマを繰り返し見る日々。一方、ちひろが毎日見ているそのドラマの主演女優・みつ子は、とある出来事をきっかけに10年間休業していたが大舞台へ復帰することに。親友でゲイのヒデヨシに付き添ってもらって久しぶりに稽古場へ向かうが、ヒデヨシのフォローもむなしく稽古初日から思うようにいかなかったため、不安定な精神状態になってしまう。稽古終わりで飲んだ西新宿の帰り道、偶然立ち寄ったコンビニでちひろと出会うみつ子とヒデヨシ。この出会いこそが“フリムンシスターズ”誕生のきっかけであり、彼らの戦いの始まりでもあった……。

フリムンとは、沖縄の方言で「気がふれる」とか「狂ったような」とか「バカ」を意味するそうです。簡単に概要だけでも頭に入れたうえで観たほうが、実際すんなりと理解できるんじゃないかと思います。ということで、自分なりに感じたことなどを正直に書いていくのでぜひ最後までお付き合いくださいませ!

総評

全体の感想を書いていきます。

キャスト:★★★★★
座席:★
全体:★★★

キャストに関しては申し分ありません。主演の長澤まさみちゃんをはじめ、どのキャストも凄く魅力的でしたしお芝居も上手でした。中でも大人計画のメンバーである阿部サダヲさんや皆川猿時さんなどが良いスパイスを効かせてくれたこともあり、ゲスト出演となった俳優さんたちのお芝居がより引き立っていて、そういった劇団ならではの見せ方やキャスティングも良かったと思います。

ただ、俳優さんたちのお芝居が凄く良かっただけに全体的な演出の粗さが目立ってしまったことは凄くもったいないなと感じました。この作品では霊能力やゲイ・レズビアンといったLGBT、首吊り自殺癖、宗教テロ…といったあらゆるセンシティブなテーマを扱っています。どれも衝撃的で大きなテーマでありながらすべてが混在して描かれているので、結局はすべてをちゃんと解決しきれずに終わってしまっていました。そういったセンシティブなものに対してどう立ち向かっていくのか、どう理解を深めていくのかを諦めるように「ま、いっか」と妥協してしまうラストだったので、個人的にはあまり納得できるものではありませんでした。

そういった周りには理解されがたい人たちがたくさんいるということを、フリムン=狂っていると定義してみんなで狂うように盛り上がればいいじゃないか!ということだと思うのですが、やはり最後の締め方は「んー…」となってしまった部分があります。それこそミュージカルの特性を活かすように、色々あったけど最後はみんなで楽しく歌って踊ってハッピーに終わるっていう描かれ方だったので、ある意味ではミュージカルで胡麻化しているという風にも捉えられた気がします。

至るところで笑いの要素はたくさん散りばめられていたし個々のシーン単体で観ていけば面白い部分もたくさんあるのですが、「自由に生きたい!」というメッセージを伝えるにしてももっと今回取り扱ったテーマとちゃんと向き合ったうえででないと説得力がないのかなぁ…なんて思いました。攻めるところだけ攻めて、あとがおざなりになっちゃっていた部分は否めなかったです。

と、結構辛口な感想になってしまいましたが、合わせてコクーンシートで観たことも1つの要因だと思います。いわゆるサイドのバルコニー席なのですが舞台の半分くらいが見切れました…(笑)身を乗り出して観ていいのであれば多少は見えるんだけど、それでも結構見切れが多いし、目の前には手すりがあるからそれも邪魔。そのため舞台を100%観ることができなかったんです。だからこそ物語を深く理解しきれなかったところもあったと思います。コクーンシートは料金設定が安めですけど、正直オススメはしません。観るなら少しでも高いお金を出してちゃんと正面から観られる席に座るべきだと思いました!

あとはカーテンコールをきっちり30秒で終わらせるといった演出もあって、そういうのは個人的に好印象でした。劇団四季はいつもカーテンコールが長いので、こうやって区切りをきっちりつけて1回で終わるのは素晴らしいと思います。他にも劇団四季とこんなところが違うなぁ…と比較しながら観ている部分も多くて、それはそれで楽しむことができました。物語自体はあまり自分の好みではなかったにせよ、観ることができて嬉しかったです。

キャストの感想

気になるキャストの感想を書いていきます。

玉城ちひろ:長澤まさみ

長澤まさみちゃんは一度生で観てみたいなと思っていたので夢が叶って嬉しかったです。今回の役どころは、無気力で沖縄方言が抜けない干物女のようなキャラクター。生きているのか死んでいるのかも分からなくて凄く地味な雰囲気が漂っていました。そんな地味な役を演じるにあたって、ちゃんと華もオーラもない感じをしっかり表現していたのが凄いなと思いました。

しかもボソボソとした喋り方ではあるんだけど、セリフがしっかりと聞き取れる滑舌の良さも好ポイント。歌声にしても芯が通っていて強さと厚みがあるので、ミュージカル向きでもあると思います。でもこの作品においては歌う場面が非常に少ないので、もったいないな~って感じました。1幕はずっとボソボソとしていて、2幕になってから結構明るい性格になるんですけど、まさみちゃんならもっとスター性のあるキャラクターを演じても絶対に素敵になるだろうなと思いました。凄く無駄遣いな感じがする(笑)ポテンシャルも高いはずなので、色んなことに挑戦してほしいです。

でも2幕で秋山菜津子さん演じるみつ子にずっと引っ付いているのが凄く可愛くて、愛嬌も抜群でした。まさみちゃんって凄く不思議で、男性からも女性からも愛される愛嬌があると思います。そういう彼女自身の気さくさと可愛らしさも発揮されていました。2幕終盤で派手めな衣装に着替えて歌って踊っている姿を観てみても、やっぱり陽なキャラが似合うんですよね。今回の役どころも凄くしっくり来ましたけど、次はもっと華やかな役で観てみたいです。

紗山みつ子:秋山菜津子

秋山菜津子さんもずーっといつか観たいと思っていた女優さんだったので、こうしてようやく拝見できて嬉しかったです。ハスキーボイスも魅力的ですし、お芝居も味があって凄く素敵でした。秋山さんの役どころは、10年ぶりに芸能活動を復帰させる大女優です。過去に実の妹を車で轢いてしまい、そのショックゆえにパニック障害に陥ってしまうことが多々ある、自分に自信のない女性を演じています。

私が知っている秋山さんって結構堂々としている役のイメージが強かったので、こういう弱気なキャラクターを演じているのが新鮮でした。いつもの低めのハスキーボイスじゃなくて若干上擦ったような高めの声で、堂々とではなく自信なさげに喋っていて、かっこいいというよりは可愛いという印象が強かったです。ちょっとめんどくさいおばさん感を出しつつ、華やかさも忘れないその佇まいはさすがでした。尿漏れしそうとか年増ならではのネタをぶっこむのも面白くて、客席の笑いを引き出すのも上手。元々大女優だったという設定にも説得力があるし、間合いだったりセリフの抑揚だったり…そういったテクニックも絶妙でお芝居が本当に上手でした。

信長/徳川:皆川猿時

皆川さんはとにかくインパクトが強烈でとにかく存在感が凄かったです。役名だけはすっごくかっこよさそうなんですけど、実際ゲイの役なので凄く派手めなゲイらしい衣装と化粧をしていました。かなり見た目は強烈です。ゲイならではの女言葉も全然違和感がないし、新宿二丁目に本当にいそうなリアルさもさすがでした。

皆川さんはこの作品におけるストーリーテラーで、ほぼ出ずっぱりです。結構フランクに客席に話しかけていて、客席をいじるのも上手でした。この辺はやっぱり劇団員ならではの安定感と立ち回りをしっかり理解されているなと感じましたし、実際作品を盛り上げていらっしゃっている1人でもありました。信長がゲイの役どころな一方で、徳川は男らしい役どころで、その演じ分けも面白かったです。

ジョージ:栗原類

首吊りするのが好きという変わった役どころで、ホームレスみたいに床にずっと座っている地味な男性を演じていました。もう違和感ない(笑)栗原さんって凄く寡黙というか、不思議な雰囲気をまとっている方でもあるので、ジョージはなんというかまんま栗原さんのイメージでした。

ちょっと不気味で近寄ってはいけないような危ない雰囲気があって、その独特の佇まいも演技をしているというよりありのまま舞台に立っている感じがして凄く自然。だから自信なさげな喋り方ではあるんだけど、栗原さんもセリフが聞き取りやすかったんですよね。お芝居も上手でしたし、結構意外でした。

個人的には2幕で実際に首を吊っているシーンが印象的でした。首を吊りすぎてタコができてしまったから死なないっていう設定ゆえに首を吊っていても全然ピンピンとしていて、そのアンバランスさに驚きましたし恐ろしさを感じました。どういう仕掛けになっているのかは分かりませんでしたけど、確かにぶらぶらと体が揺れていて死んだような佇まいをしているのに、普通に生きていて楽しそうにしていて、凄かったです…。栗原さんの佇まいが本当に独特すぎて怖くて、引き込まれました。

八千代/鮪女:笠松はる

今回お目当ての1人でもあった笠松はるちゃん!観るのは2015年の『ミュージカル李香蘭』以来かもしれません。1幕は特に大きな出番があるわけではないんですけど、2幕でみつ子の妹・八千代役で登場したときにかなり大活躍されていました。実の姉に車で轢かれて、ブロードウェイの夢が絶たれたという設定ゆえに、姉を恨んでいるんでしょうけど表向きは「全然怒ってないわよ」と怒りを隠しているようなサイコパス感がある役どころで、結構怖かったです。

お淑やかさと恐ろしさが共存していて、絶対に怒らせてはいけない、絶対に気を遣わないといけない…そんな感じがする女性を見事に演じていました。八千代としての出番は少ないんだけど、かなりインパクトがあってかなり印象が強く残るキャラクターでした。はるちゃんのお淑やかで落ち着きのある声に深みを持たせることで、思わずゾッとしてしまう声色になるのが凄かったです。もちろんセリフも聞き取りやすいし、お芝居も上手でした。

そして何より、はるちゃんの歌をたくさん聞けたことも嬉しかったです。たべっ子どうぶつビスケットの歌とか『マイ・フェア・レディ』のパロディのようなナンバーとか色々歌っていて、美しいソプラノで魅了していました。ずば抜けて歌が上手かったんじゃないかと思います。今まで私が観てきたはるちゃんとはガラッとイメージが変わった役どころでしたが、はるちゃんってこういうお芝居もできるんだという発見に繋がって、観ていて凄く楽しかったです。

ヒデヨシ:阿部サダヲ

私が絶対に人生のうちに観ておきたい俳優さんの1人でもあるサダヲ!ようやく観ることができました。サダヲもゲイの役どころなのでオネエ言葉だし基本内股だしちょっと弱気だし…という特殊な雰囲気をまとっていましたけど、すっごく似合っていました(笑)ゲイというかオネエを演じるのが上手い。とっても可愛かったです。

そしてお芝居もすっごくナチュラルで、自然体なのがさすがでした。一切無理をしていなくて、サダヲがそのまま舞台に立って人生を生きているみたいにヒデヨシというキャラクターがとてもイキイキとしていました。くわえて笑いを起こすのも上手。人を笑わせようとして笑わせているというよりも、やった結果人が笑ってしまうっていう感じかな。ネタのぶっこみかたも凄くナチュラルなので、結構笑わせられました。嫌味がなくて憎めないところもサダヲらしいです。

オネエを隠そうとすると江戸っこの口調になってしまうという設定もあって、もうノリが完全に劇団☆新感線みたいなんですよね(笑)わざとらしいお芝居も逆にサダヲがやるとナチュラルで、お芝居をしているのかしていないのか分からないその佇まいが魅力的でした。歌もちょっとですけど聞けて嬉しかったです。

観劇の感想

気になったポイントについて書いていきます。

伏線と回収

色んなテーマがありすぎてごちゃごちゃしている部分も多いんですけど、実は1つの伏線がずっと張られていてそれを何度も回収するっていう演出もあって、それが個人的には凄く良かったです。それが「後ろからズドン」というフレーズ。何度かこのフレーズが出てくるんですけど、それが何なのかは分からないまま話が進んでいきます。

そして物語の中盤から、現在と過去が交差する演出が頻発。その中で、この「後ろからズドン」の正体が明らかにされます。要するに、後ろから銃で撃つことを指していました。そしてこれはこの伏線が明らかになってからも何度も登場して、次々と人が後ろからズドンされていきます。そのたびに登場人物たちが「後ろからズドン!」と声をあげます。何度も聞きすぎて洗脳されそうでした…。

あらゆる話がごっちゃごちゃに交わっている中で、このように一貫したフレーズが使われ続けることは物語に関連性を持たせる役割を果たしているなと感じました。結果的に問題提起されたものに対しての解決策は見つからないまま終わってしまいますけど、実はすべてが繋がっていたことがこの伏線と幾度の回収によって示されていて、個人的には凄く評価できるポイントでした。

ギリギリすぎるパロディ

大人計画ってわりと劇団☆新感線に近しい系統なんですかね…(笑)結構パロディがギリギリすぎて不意打ちをくらいました。普通に劇中でも「伊勢丹」だとか「たべっ子どうぶつビスケット」だとか「サイゼリア」とか固有名詞がバンバン出てきたんですけど、それもアリなの?笑

特に伊勢丹とたべっ子どうぶつビスケットは作品における重要なポイントでもあるので、ここまで商品名で攻める演出にはさすがに笑いました。伊勢丹とかはゲイを排除する宗教団みたいな扱いで出てきたので、これアウト寄りのグレーなのでは…と思いました。

で、2幕の笠松はるちゃん演じる八千代が登場するシーンではマジでギリギリすぎるパロディの大連続。八千代が訳アリのミュージカルを目指す人たちを呼び込むんけど、その人たちの衣装が『オペラ座の怪人』のファントムだったり『Annie』のアニーだったり『ピーターパン』のピーターパンだったり…。もはやコスプレの域でした。あとはネコ科のコスプレをしている人がいたんですけど、あれが『ライオンキング』なのか『キャッツ』なのかは分かりませんでした。どちらにしてもクオリティが高いんだか低いんだか分からないギリギリを攻めていて、めっちゃ笑いました(笑)

ミュージカルを目指しているっていうことを表現するためにここまでギリギリのパロディをやっちゃうところが度胸あって凄いです。マジで新感線みを感じます。しかも、はるちゃんのところでさらっと触れたけど、『マイ・フェア・レディ』のパクリみたいな曲も登場しました。それをはるちゃんが高らかと歌っていました(笑)さすがにそのあと、サダヲが「ラインに触れないようにギリギリを攻めるね」って突っ込んでいました。カオスです(笑)

こういうのって劇団四季だと絶対に観れない演出なので、ここまで振り切ってみんなで全力でふざけるのって日本ならではで面白いなと思いました。みんなが本気でふざけるのって、観ているこっちも頭のネジを外して観ないと白けちゃうけど、凄く楽しく観ることができました。笑いを挟まないと死んじゃう病なんでしょうね(笑)

まとめ

かなり辛口なレポとなってしまいましたが、色々と考えさせられることが多かったのも事実です。栗原類さん演じるジョージが首を吊りながら「人は簡単に死んじゃいけない」って言った言葉が、今回とても心に響きました。シチュエーション的には最悪ですけどね(笑)このご時世だからこそ、芸能人の自殺が相次いでいる今だからこそ、より一層この言葉は重く響いたと思います。

そして世の中には他人から理解されずに生きている人がたくさんいて、きっとそういう人たちははたから見れば「狂っている」と思われるんだと思います。でもそういう多様な生き方があっていいじゃない、と提示してくれる作品であることは間違いありません。

どちらにしても、今回こうして観ることができて嬉しかったです。俳優の皆さんは本当にお芝居が素晴らしかったですし、改めて自分の観劇における姿勢とか劇団四季の演出方法との違いとかも考えさせられました。きっと人によってこの作品に対する感じ方は絶対に違うので、私のレポはあくまで1つの意見としてとらえるだけにしていただきつつ、ご自身が感じたことをぜひ大切にしてほしいです。

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