Broadway『FROZEN』上演終了!残された課題と舞台の魅力




アナと雪の女王
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なかなか心の整理がつかないまま、衝撃のニュース発表から日が経っていました。

ブロードウェイのセントジェームズ劇場で上演されていた『FROZEN』。2020年3月11日以降、新型コロナウイルスの影響で上演ができずしばらく休演が続いていましたが、日本時間の5月15日、再開を待つことなくクローズすることが発表されました。

この衝撃のニュースの3ヶ月前、私は2020年2月14日~2月16日までブロードウェイに滞在しており、3日間で『FROZEN』4公演を観劇してきたばかりでした。

まさかあのときはアメリカで新型コロナウイルスが大流行することもブロードウェイ全体で劇場が閉まることも、『FROZEN』が再開を待つことなくクローズすることも当然予想なんて出来なかったです。つい先日わざわざ渡米して観てきたばかりの作品だったこともあり、正直今でもこの事実を受け止めきれませんし、受け入れられません。

だからこそ、ブロードウェイ『FROZEN』への感謝の気持ちを述べると共に、どうしてビジネス的に成功できなかったのか、今回の件を受けて浮かび上がってきた課題などについて考えていきたいなと思います。




なぜ『FROZEN』は上演終了となったのか

今回『FROZEN』が上演終了に至った理由としては、非常に厳しい問題としてビジネス的な部分が取り上げられました。詳細は禁断さん(@J_kindan)のブログ記事に簡潔にまとめられていますので参照いただけますと幸いです。

上記の記事にもありますように、ブロードウェイで上演されていた『The Lion King』と『Aladdin』の2作品に比べ興行成績が低いことが要因となり、この人気2作品の上演維持のために『FROZEN』をクローズするという決断に至ったそうです。

今回のクローズはブロードウェイだけが対象であり、北米ツアーやドイツ、日本などの公演は対象外となります。新型コロナウイルスの影響もあって全世界すべての公演が来年以降の再開・開幕となりますが、もう今後『FROZEN』が観られないということではないそうなのでひとまず一安心と言えるでしょう…。

ちなみに日本では、本来2020年9月10日開幕予定だった劇団四季の『アナと雪の女王』が2021年6月開幕に延期されることになりました。こちらに関してはまた改めて最新情報が出次第、随時まとめていきたいと思います。

さて、話を戻してブロードウェイ『FROZEN』のクローズの理由について深く考えていきたいと思います。結果的に『The Lion King』と『Aladdin』と比較して観客動員数だったり収益だったり、数字的な部分が要因となり残念ながら切り落とされてしまった『FROZEN』。このことからも分かる通り、あのディズニーでもこうした苦渋の決断を迫られるほど、演劇業界は非常にシビアな状況に追い込まれています。

そしてビジネス的な観点から『FROZEN』のクローズ要因を考えるにあたり、ブロードウェイミュージカルの仕組みを理解する必要が出てきます。Disney on Broadwayの仕組みやブロードウェイのチケット変動制の仕組みについては、westergaardさん(@westergaard2319)のブログ記事に分かりやすくまとめられていますのでぜひこちらをご参照ください。

ここで一つ取り上げたいのが、私がちょうど渡米したタイミングの『FROZEN』についてです。私が観劇した2月14日~2月16日は、初代エルサ役のCaissie Levyと初代アナ役のPatti Murinを観られるラストチャンス期間でした。

渡米前に公式サイトにて残席状況を随時チェックしていたのですが、私が渡米する期間の前後はチケットの売れ行きが約6割いくかいかないかだったと思います。『FROZEN』は開幕直後はチケット難が続いていたものの、開幕から日が経てばだいぶ落ち着いてきたそうです。こういった現象はロングランを続けている公演であれば、決して珍しいことではありません。初動の話題性で集客して、そこからリピーターを増やせるかどうかがロングランを続ける上で重要ですし、実際にそのビジネスモデルで成功している作品はいくつもあります。

再び話を戻しますが、2人の卒業公演となった2月16日のソワレ公演はセンター前方席(Orchestra)がほぼ完売という状態で、さすがに卒業公演だけあって需要の高さが窺えました。ただ渡米前時点で公式サイトを見る限り、1階前方ブロックと2階前方ブロック以外はチケットが売れ残っていましたし、実際に当日券チャレンジに成功していた人もたくさんいました。日本なら記念公演のチケットなんてプレミアになるほど入手が困難ですし、世界的大ヒットを記録した『FROZEN』というビッグタイトルにおいて、この記念公演ですら完売にならないという状況は非常にまずかったと思います。

当時の客席の熱気や雰囲気を考えても、2月16日のマチネ・ソワレの2公演に関してはほとんどの人が『FROZEN』という作品を観に来たのではなく、Caissie LevyのエルサとPatti Murinのアナを観に来ていたのは火を見るよりも明らかでした。今回は卒業公演という特別感があったのでその点は仕方ないと思います。

しかし例えばこのように、キャストありきで集客する状況ってロングランを続けていく上での弱点とも言えるのです。キャスティングも重要な要素の1つですが、そこだけに頼ってしまうと安定した収益は見込めませんし、作品そのものが愛され続けていくには限界があります。だからこそ、『FROZEN』が作品として愛されるためにもっと何か観客を惹きつけるものを提示しないといけなかったのかなと感じました。

こうした状況を考えてみれば、今回奇しくも新型コロナウイルスという大きな壁にぶち当たってやむなくクローズとなりましたが、もし何事もなく公演が続けられていたとしてもそう遠くない未来に『FROZEN』のクローズは決定したかもしれません。

ただし、決してブロードウェイで成功することだけがショービジネスの成功とは言い切れません。ディズニーは全世界で上演されていますし、ブロードウェイで成功しなくても他の国で成功する可能性もあります。残念ながらブロードウェイで『FROZEN』は成功できませんでしたが、他の国でなら愛される作品となる可能性は充分にあるでしょう。愛されてほしいです。

ミュージカル『FROZEN』に残された課題

ここからは私が実際にミュージカル『FROZEN』を観劇して抱いた違和感や課題をまとめていきたいと思います。これらがブロードウェイで成功に繋がらなかったすべての要因とは言い切れませんが、『FROZEN』の舞台化がいかに難しいことだったのかを考えるヒントになるのではないでしょうか。ただ、あくまで私個人の意見であるという点をご承知いただけますと幸いです。

そもそも2018年にブロードウェイで上演されたとき、『FROZEN』は批評家たちによって批判的なレビューを受けていました。

このレビュー結構ボロクソに書かれてますけど、非常に的を得ていると思います。レビューの中で取り上げられた問題は、私が実際に感じた『FROZEN』の課題とも繋がっていました。それらを噛み砕きながら、一つ一つ挙げていきたいと思います。

エルサの魔法表現

CGのアニメーション映画を舞台化するにあたって一番の難点はエルサの魔法表現だったと思います。同時に、観客が一番に期待するポイントも「エルサの魔法をどう表現するか」なのではないかと考えています。ブロードウェイではすでに『Aladdin』が大成功していて、ジーニーの魔法を舞台という限られた空間で見事に表現していました。それもあって『FROZEN』は特に期待値が相当高かったはずです。

実際『FROZEN』では紙吹雪や氷柱の舞台セット、真っ白な衣装、そしてプロジェクションマッピングといったあらゆる手法でエルサの魔法を表現していました。映像技術とアナログな技法を用いての多様性な演出はとても素晴らしかったですし、中でもプロセニアムアーチを含めステージ全体を視覚的に凍らせたプロジェクションマッピングの魔法表現は現地で観ていても鳥肌が止まりませんでした。

しかし同時に良くも悪くも「Let It Go」で演劇におけるエルサの魔法表現の限界を感じてしまったのも正直なところです。エルサの魔法は基本的にエルサの手や足から放たれます。エルサの手元から直線や曲線を描くように魔法が別の場所へ。このプロセスを違和感なく表現するためには、やはりプロジェクションマッピングが最適でした。この映像効果があまりにも『FROZEN』の世界観を表現するのに最適すぎる分、それ以外の演劇的な魔法表現は逆にあまりにも非ファンタジー的すぎて感動を呼び起こしにくいのだと思います。

『The Lion King』の演出家であるJulie Taymorが以前開いた講演会の中で、1幕オープニングで登場する太陽を、「映像で表現することもできたけどしなかった」「太陽がシルクと竹で出来ていることに人々は感動する。劇場に入ることでそれをシルクと竹ではなく太陽と信じることができる」と語っていました。多分原理はこれと同じなのかなと思います。Julie Taymorは「映像では人は感動しない」と仰っていましたが、『FROZEN』はその逆でした。プロジェクションマッピングで映像美を見せつけられたことによって、逆に演劇的な手法のどれもが感動とは程遠いものに感じられてしまったのかもしれません。

だからこそエルサの魔法を舞台上で表現する代わりに、エルサのキャラクターそのものを深掘りしたのではないかと考えています。映画では氷の形や色、吹雪というように魔法を用いてエルサの心情を表現していました。一方で舞台では「Dangerous To Dream」や「Monster」というオリジナルナンバーをわざわざ追加してエルサの心情を歌っており、歌詞や台詞でエルサの感情表現をしているわけです。これが映画と舞台での、エルサというキャラクターの描き方の大きな違いと言えるでしょう。

これは元来の作品ファンであれば相当嬉しい変更点だと思います。エルサのキャラクターが深掘りされて、どのようなことを考えて感じていたのかがはっきりと提示されるわけですから。ミュージカルの特徴を活かし、舞台における難点を別のポイントからカバーしたのは私としても凄く評価が高いなと思いました。しかし、元々エルサの魔法を楽しみに訪れたライト層たちは、「思ってたのと違う…」となる人も多い気がするのです。

『FROZEN』のキーとなるのがエルサの魔法だからこそ、エルサの魔法を舞台で表現するのに限界があったことはミュージカル化における課題だったと思います。『Aladdin』のようにジーニーがコミカルに観客を笑わせてくれるわけでもありませんし、エルサのキャラクターそのものに見応えがないと観客は飽きてしまうんですよね、多分。

ストーリーの展開の速さ

正直映画においてもラストのアナが凍り付いてから解凍するまでの流れは観ていてスピーディーだなと感じるのですが、ミュージカル版は映画版よりもさらに展開がスピーディーです。ベースは映画と同じですから、もちろん映画を観ずとも作品自体は楽しめると思います。しかし、今回のミュージカル版は映画を観て内容を知っている前提の変更点がかなり多いように感じました。

どうしてかと言うと、エルサやアナ、クリストフ、ハンスといったお馴染みのキャラクターの深掘りがされているからです。上演時間は約2時間なので実質映画(1時間49分)とさほど時間は変わりません。しかし、ミュージカルではキャラクターの深掘りをするためにオリジナルナンバーが追加され、1シーンをより丁寧に描いています。その分、1シーンの尺が長くなるのでどこかを削る必要が出てきます。

映像と違い、流れるようにシーンの切り替えができない舞台では、重要なシーンを繋ぐ「間」の場面はほぼほぼカットされていました。キャラクターを深く掘り下げる代わりにシーンをいくつか削ることによって、キャラクターそのものの深みは増すけどストーリー展開そのものは非常にシンプルに削ぎ落されています。これはアニメや映画の舞台化ならよくある話なのですが、『FROZEN』はその削ぎ落し方がかなり雑だなと個人的に感じました。(私ですら、アナとハンスとクリストフが一度に初めて出会うというミュージカルでの変更シーンはあまりにも唐突すぎて理解が追い付かなかったですし…)

だからこそ、舞台で削ぎ落された「間」の部分は映画を観ていてすでに知っている前提でないと補完できませんし、雑すぎるからこそミュージカル版だと「どうしてそうなったの?」と疑問を抱くことになるのだと感じました。

ドキュメンタリーのようにいちいち誰かが解説してくれるわけでもありませんし、アナがどうして「真実の愛」で解凍できたかも凄く抽象的すぎてただ観ているだけでは理解しにくいですし、やや大人向けで頭を使いながら観る必要がある作品って実は結構観ていて疲れてしまうんですよね。そういう意味でも、この作品はエンターテインメント性だけを求めて訪れた客層には響きにくいのではと思いました。

ショー要素の少ないドラマ性

前のセクションでも触れましたが、『FROZEN』は映画と違って非常に大人向けのシリアス要素満載のミュージカルです。どうしても「Let It Go」のように華やかそうな一面ばかりが取り上げられがちなので、『Aladdin』と同じくショー要素やエンターテインメント性が強いミュージカルと期待する人も少なくないでしょう。

大人向け、つまり子どもには退屈と思われやすい作品でもあるということです。アナやエルサに憧れる子どもはたくさんいますが、いくら大好きなキャラクターが登場しても話が難解では子どもも飽きてしまいます。くわえてエルサはそんなに登場回数が多いわけでもありませんから、余計に子どもにとっては満足度がそこまで高くないのかなとも思いました。そうなると、今後家族連れのリピーターは増えない可能性が非常に高くなります。この客層を取りこぼしてしまうのは、非常に痛手となるでしょう。

レビューでも取り上げられていましたが、2幕は退屈に感じてしまう人がさらに多くなるかもしれません。2幕はクリストフやアナをはじめ、バラード寄りのオリジナルナンバーが非常に多いですし、演出自体も全体的に絢爛豪華というよりはしっとり系です。見せ場となるシーンはほぼほぼ1幕で描かれてしまっているからなのです。これもまた、『FROZEN』をショー感覚で娯楽として消費している人にとってはまったく響きません。

映画における『FROZEN』とミュージカルにおける『FROZEN』は、描かれ方が全然違います。だから私は映画とミュージカルを合わせて初めて『FROZEN』が作品として完成すると思ったくらい、ミュージカル『FROZEN』は映画とは違う印象を抱きました。この先入観がとても怖いです。知名度が高く、これだけ全世界に愛された作品だからこそ、ミュージカルで大人向けの作品に仕上がったことが受け入れられるかどうかの分かれ道になったのではないでしょうか。ハマる人はハマるし、ハマらない人はハマらない。『Aladdin』や『The Lion King』のように原作を知らなくても純粋に大人から子どもまで楽しめる作品ではない、という点が『FROZEN』がこの2作品と差をつけられた要因なのではないかと感じました。

もちろんミュージカルならではの魅力も満載

私もここまでボロクソに書いてしまいましたが、それでもミュージカル『FROZEN』の虜になった人間です。それは、ここに挙げた課題以上にミュージカルならではの魅力に憑りつかれたからに他なりません。

前提として、私自身が『アナと雪の女王』の作品ファンであることは確かにあります。元々ミュージカルオタクだからというのもあります。だからこそ、ここまで響いたのだと実感しています。

ミュージカルならではの魅力、それはやっぱりキャラクターの掘り下げでした。キャラクターを掘り下げるために書き下ろされた10曲以上のオリジナルナンバー。それらが本当に私にとって大きな衝撃を与えてくれました。人は興味がないものに対しては心が動かされませんし、映画になかったオリジナル楽曲の数々を聴いて「私の知っている『FROZEN』じゃない…」と感じてしまう人もきっと少なからずいたと思うのです。

でも実はそのどれもがしっかり意味のあるナンバーで、映画では描き切れなかったエルサやアナといったキャラクターの内面を丁寧に描いていて、映画では読み取れなかったキャラクターの感情を理解することができました。歌はミュージカルにおいて、ただ歌うのではなくて物語の進行の役割を果たす重要な要素です。ただ台詞を喋るだけだと響かない言葉が、歌に乗せて喋ることで心の奥にまで響くようになるのです。音楽による感情表現は、私がミュージカルを好きな理由の1つでもあります。

しかもミュージカル『FROZEN』に関してはありがたいことに、westergaardさん(@westergaard2319)がご自身のブログで楽曲解説をしてくださっていました。

渡米前にこちらのブログを何度も拝見し、ミュージカルナンバーの歌詞の意味や作品においてどのような役割を果たしているかなどを勉強させていただきました。いずれ劇団四季で上演が始まれば、日本語版の歌詞は発表されます。しかし、やはりオリジナルの歌詞ってとても重要なキーワードが散りばめられていますし、翻訳時に削ぎ落されてしまう可能性もないとは言えません。だからこそ、オリジナルの歌詞の解釈を知っておくと、よりミュージカル『FROZEN』を楽しめると思います。

確かに課題が多い舞台化ではあったものの、私は『FROZEN』をミュージカル化した価値は絶対にあると信じています。好き嫌いが分かれるかもしれませんが、届く人には届く作品です。私はこれからも、微力ながら『FROZEN』の魅力を発信していきたいと思います。

ミュージカル『アナと雪の女王』は日本で成功するのか?

こうしてブロードウェイで興行成績を理由に『FROZEN』がクローズとなってしまった今、果たして日本でミュージカル『アナと雪の女王』が成功するのかどうかが気になると思うのですが、結論から言うと劇団四季が何としても成功させるはずです。

劇団四季は『ライオンキング』をはじめ、数々の有名ミュージカルを上演しており、すでに国内に多くの顧客を抱えています。加えて、JCSI(日本版顧客満足度指数)調査では毎年エンタメ部門の上位3位以内にランクインしているほど、顧客満足度の高い劇団としても知られています。そんな劇団四季が上演するビッグタイトルですから、普段はミュージカルを観ない層もターゲットとして狙いやすいでしょう。

ただでさえディズニー作品は知名度が高いので、それだけで新規顧客を獲得しやすいというメリットがあります。そのため初動は話題性だけでも集客ができますし、開幕から2~3年はチケット難の状態が続くと予想できます。もちろんそこから先はどれだけ作品のファン(=リピーター)を増やせるかどうかが勝負となるでしょう。

そして劇団四季最大の強みは専用劇場を持っている点です。『アナと雪の女王』が上演される予定の四季劇場[春]も劇団が所有する劇場なので、どこかの劇場を借りて一定期間契約を結ぶわけではありません。こうした特徴から、外部とのしがらみ云々に大きく左右されずにロングランを行うことが可能となります。

また、四季の狙いとして国内にミュージカルファンを増やすことが挙げられます。その戦略として、四季の営業さんが全国の学校に売り込みをして子どもたちにミュージカルを観劇してもらう機会を増やしているのです。「こころの劇場」と呼ばれる、子どもたちを無料で招待する慈善活動もその一環と言えるでしょう。そこで感動を得た子どもたちが、大人になって何度も劇場に足を運ぶようになる。いわゆる「リピーターの獲得」です。

この劇団四季のビジネスモデルとして最適だったのが、まさに『ライオンキング』でした。ディズニー作品という知名度の高さ、伝統的な演劇手法の数々、父と子の絆の物語、友情の尊さ、命の大切さ。こういった要素が存分に詰まった作品であるために、大人が子どもに見せたい内容である点も大きく評価されたのではないでしょうか。実際、小さな子どもを連れて観劇する家族連れも非常に多いです。

先述したように、リピーターになるために大切なのは「観劇における感動体験」です。『アラジン』のようにコメディ要素やエンターテインメント性が強いわけでもありませんし、『リトルマーメイド』のように子ども向けのテーマでもありません。また『ノートルダムの鐘』のような重厚なドラマが描かれた作品でもないので、『アナと雪の女王』は正直これまでの四季で上演されてきたディズニーミュージカルの中でもかなり特異な作品と言えるでしょう。私が挙げた「作品の課題」も多い中で、この作品を観た人たちがどこに感動を覚えるかがリピーターを増やすカギとなります。

強いて挙げるとすれば、すでに『アナと雪の女王』という作品を好きな人ならエルサやアナといったキャラクターが深掘りされている点にミュージカルならではの魅力を感じられるでしょう。一方で、なんとなく映画を観たことがあるくらいのライト層には響きにくいであろう要素がたくさん詰まっているので、正直「期待外れ」と思われてしまう可能性がないとも言えません。しかも日本の客層は女性が圧倒的に多いですから、女性を主人公にした作品の場合は女性の共感を得やすい描かれ方がされていないと女性から支持されるのは非常に難しいと思います。『マンマ・ミーア!』のように結婚や出産、育児を取り上げた作品は女性からも共感されやすいんですけどね。

しかし、キャラクターの心情を歌うナンバーが多数追加されたことによって人間ドラマはより濃厚に描かれました。『アナと雪の女王』を娯楽やエンターテインメントとして楽しむのではなく、一つの人間ドラマとして演劇的に楽しむことができれば、凄く心には響くと思うのです。ディズニーというと絢爛豪華で壮大な世界観のイメージが強いので、その通りの期待値で観劇してしまうとこの作品は期待外れになってしまうかもしれません。だからこそ、私はぜひ『アナと雪の女王』という作品を絢爛豪華なディズニーミュージカルという先入観を捨てて、純粋に劇団四季のミュージカルの1つとして楽しんでほしいなと思っています。

映画との違いや作品の魅力、キャラクターの描かれ方は禁断さん(@J_kindan)のブログにめちゃくちゃ詳しく書いてありますので、気になる方はこちらをぜひご参照ください。これを読めば一発で理解できると思います。

そして私がこのセクションの冒頭で述べた「劇団四季が何としても成功させる」の意味は、ビジネス的な部分で新規顧客を大いに獲得するという点です。相当プロモーションをかけてメディア特集を組ませるでしょうし、テレビのCMや電車内広告でもばんばんPRするでしょう。「あ、劇団四季の『アナと雪の女王』観てみたい」と思わせたら勝ちです。

そのために、惜しみなく「For the First Time In Forever」や「Let It Go」のようなショー要素が強く世間からの認知度の高いナンバーのシーンを抜き出してアピールすると思います。まずは認識してもらい、認知してもらい、観たいという欲求を高めてもらい、その欲求を記憶してもらい、実際に劇場に足を運んでもらう。これはAIDMA(アイドマ)というマーケティングの購買行動モデルに当てはまります。

どんな方法であれ、演劇は劇場に足を運んでもらわない限り何も始まりません。その点でも四季は『アナと雪の女王』を成功させるために凄く気合いを入れると思います。だからこそ、そんな四季ちゃんの想いとブロードウェイ『FROZEN』のクローズが報われるためにも、より多くの人に劇団四季の『アナと雪の女王』を観てほしいなぁ…。そしてどうか、日本で多くの人に愛される作品として上演され続けてほしいというのが私の心からの願いです。

ブロードウェイ『FROZEN』の思い出

最後に、改めてブロードウェイ『FROZEN』について自分の想いを整理したいと思います。

「推しは推せるうちに推せ」だとか「やらないで後悔するよりやって後悔しろ」とか色んな言葉がありますが、今回ほど自分の信念を貫いて良かったと感じたことはありません。元々『FROZEN』の熱狂的なオタクではなかったですし、私がミュージカル『FROZEN』を意識するようになったのは劇団四季で『アナと雪の女王』の上演が発表されたあとのことです。正直ブロードウェイには行きたいけどいつか行ければいいや…くらいの温度感でした。

しかし、OBCのCaissie LevyとPatti Murinが卒業すると聞いて絶対に観たいという気持ちが高まり、実際に渡米するという行動力を発揮。まさかこれが自分にとって最初で最後のブロードウェイ『FROZEN』観劇となるなんて思いませんでした。もちろん後悔のないように満喫してきたつもりですが、今思えば「もっとあそこに注目すれば良かったな」とか「あのグッズを買えば良かった」とか、それでも後悔することはたくさんあります。

「これが最後になる」と分かっていたら、きっともっと違う行動をしていたでしょう。でも過去のことは悔やんでも仕方ありません。むしろ、観ることができて幸運でした。そう思いたいです。

そしてOBCの卒業公演という奇跡のタイミングに立ち会えたことは本当に自分の一生の宝物です。あんなに客席が一体となり熱気に包まれた公演と感動体験は一生忘れません。

もうブロードウェイで、あの劇場で、あのキャストで『FROZEN』を観ることができないのは本当にショックです。しかし、これから全世界で上演される『FROZEN(アナと雪の女王)』が多くの人に愛されていくんだろうな…と思うと、少しだけ心が救われます。

そして私だけでなく、たくさんの人がブロードウェイ『FROZEN』を観てきました。そんな人たちが周りにたくさんいます。観劇してきた人たちの思い出の中でブロードウェイ『FROZEN』は生き続けるのだと思います。

もっと語りたいことはたくさんあるけど、当時のレポにそのときの想いはすべて書き記していますのでここでは割愛します。本当に、かけがえのない素敵な思い出をありがとうございました。

過去から学ぶ道

ミュージカル『ライオンキング』の中に、「過去とは痛いものだ。だが道は2つしかない。過去から逃げるか、学ぶか」という台詞があります。『ライオンキング』の言葉を拝借するのはある意味皮肉ですけど、この言葉通り、今回の『FROZEN』のクローズから学ぶことはきっと少なくないでしょう。

ブロードウェイ『FROZEN』は演出変更があった直後の休演、そして上演終了となってしまいましたが、今後もどんどんアップデートされていって作品自体が進化し続けるのは間違いありません。


きっともっとより良い『FROZEN』が観られることを期待しつつ、これからも一観客としてその変化を追い続けながら、何度も劇場に足を運べる日を楽しみに待ちたいと思います。

ブロードウェイ『FROZEN』に出会えたことは、私にとって自分の人生の財産です。

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