2020年11月23日マチネ 劇団四季『ロボット・イン・ザ・ガーデン』




ロボット・イン・ザ・ガーデン
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ゆうき
ゆうき

東京公演前期My楽です!

日時:2020年11月23日マチネ公演
場所:自由劇場
座席:1階S席5列14番




はじめに

初観劇から約1ヶ月。1回行ければいいやと思っていたけど気付いたら8回に増えていました。2桁行かなかっただけまだマシかな。でもそれくらい自分にとっては衝撃的な出会いで、まさかこんなに素敵な作品だったとは思わなくて凄くビックリしましたし、何度でも観たいと思って劇場に足を運ぶようになりました。

22日と23日は配信もあったのでたくさんの人がこの作品と出会ったと思います。22日の配信では様々なカメラアングルで俳優さんの表情を映していて、ここではこんなことしてたんだ…とかこんな小道具が置いてあったんだ…とかたくさんの発見ができました。そうした発見、そして配信ならではの見え方を経験したあとでの今回の観劇はいつもと感じ方が変わりましたし、よりこの作品に対して理解が深まって楽しめました。

客席にはカメラがいっぱい設置されていて不思議な感覚でしたけど、そんな貴重な経験もできた今回のMy楽をしっかり楽しんできたので総括も含めてレポしていきます。ぜひよろしければ最後までお付き合いください。

総評

全体の感想を書いています。

キャスト:★★★★★
座席:★★★★★
全体:★★★★★

My楽は大好きなうぶちゃん&渡邊さんタング。そして大好きなゆきみさんやあゆ美さんをはじめ、お馴染みのキャストが全員揃っていて本当に素晴らしい観劇ができました。この作品は俳優さんの力が凄く大きくて、俳優さんのお芝居によってガラッと印象が変わるのでそれも楽しみの1つでした。今回もリアリティ満載の白熱したお芝居で凄く熱気のこもった公演になっていたと思います。

また、座席は2列目のドセン!凄く観やすかったです。22日の配信で照明が凄く綺麗だったことに気付いて、今回は照明も少し意識しながら観たのですがやはり前方だと照明は見えにくいかもしれませんね。どちらかと言えば俳優さんの表情を楽しむほうにウェイトが重くなりがちです。ただ、私の視力が一気に低下したらしく2列目でもぼやけちゃってて「コンタクト作り直さないと〜」ってなりました。

まあそれは置いといて、客席も凄く盛り上がっていて拍手も大きかったし笑いも至るところで起こっていたしで凄く楽しかったです。配信でもそれは伝わったんじゃないでしょうか。

そういった相乗効果もあって、凄く楽しい観劇ができました。本当に最高のMy楽になりましたし、改めて『ロボット・イン・ザ・ガーデン』に出逢えて良かったと実感できました。また来年から始まる東京公演が早くも待ち遠しいです!

キャストの感想

気になるキャストの感想を書いていきます。

ベン:田邊真也

前回とまたお芝居の雰囲気が変わっていて、全体的には以前の感じに戻ったように思いました。もちろん要所要所で新しいお芝居をされているところもあるんですけど、だからこそ本当に毎回ベンがリアルに生きているように感じます。

今回は一部歌詞を間違えてしまったり台詞を噛んだ?りもしたのですが、それでも動じることなく凄く自然体なお芝居をされていました。安定感がありましたし、オフマイクとかも相変わらず豊富で観ていて楽しかったです。

個人的に凄くいいなと感じたのが、2幕ラストのエイミーとのやりとり。エイミーに気持ちを伝えるところのセリフが凄く印象的でした。「もう一度…違うっ…今度こそ…!君と本当の家族になりたい」というセリフなのですが、「違う」は多分台本にはない言葉です。この日のベンがリアルに生きているからこそ咄嗟に出た言葉なんだろうなって思いました。ベンにとってエイミーと本当の家族になることは、「もう一度」ではないんだなって。同じ間違いは起こしたくない、過去の自分とは違うというベンの強い想いもあったからこそ「違うっ…」と自分の言葉を否定したのかなと思いました。このときの田邊さんの表情も凄く真剣で、エイミーに対して誠実になりたい気持ちがヒシヒシと伝わってきて胸がキュッとなりました。田邊さん、本当にこういうリアリティに溢れたお芝居が上手。とてもベンに愛しさを感じました。

あとは、1幕ラストのエイミーとの電話のやりとり。旅を続けていることをエイミーに告げたら、「旅を続けてるのね!あなたは前を向いているんだ」と嬉しそうなエイミーの返事が返ってきます。それを聞いた田邊さんベンが、凄く嬉しそうな笑顔を見せていました。認めてもらえたことの嬉しさや褒めてもらえたことの喜びもあったのかなと思います。そして、何より彼女の次の言葉に期待していたんだと思います。きっと彼女が振り向いてくれる、またやり直せる…って信じてたのかなって、そう思わせる表情をしていました。だからこそ、エイミーに離婚届を送ると言われたときの焦りようと驚きと悲しさの合わさった何とも言えない表情もグッと来ました。分かりやすい表情の変化ももちろん、田邊さんベンがこんなにも生々しく今を生きていることに感動しました。こういうところも含めて、田邊さんベンは魅力的だなって思います。

今回観ていて、改めてベンは田邊さんにしか演じられないと思いましたし、こんなにもベンを愛しく思えるのは田邊さんが演じているからなんだなと再認識できました。こんなにもダメダメな男性を演じるのが上手で、それなのにこんなにも愛しくて、そして何よりかっこよくて優しくて温かい。タングがベンを信じようと思うのも凄く頷けます。それを強く感じられた観劇になりました。

田邊さんのことはこれまで色んな作品で観てきましたけど、この作品ほど魅力を感じられた役はないです。田邊さんのベンに出会えたことは大きな財産となりました。

タング:生形理菜/渡邊寛仲

締めはやっぱり大好きなうぶちゃん&渡邊さんペアのタング。初めて観たときからうぶちゃんのタングと一体になった表情には泣かされていましたけど、改めてうぶちゃんの表情に凄く心を掴まれました。

タングが幸せそうなときはうぶちゃんもすっごく笑顔で、タングが怒っているときは一緒になってぷくっとした表情をして、そしてベンと心を通わせるシーンでは泣きそうな表情をして…と、うぶちゃんの表情を通してタングの感情が伝わってきました。

この、パペティアの視線がタングにずっと向いていることについては23日分の配信のトークコーナーでも触れられていました。パペティアさんたちはずっとタングを見ていて、他の俳優さんたちのことは見ていません。これによって私たち観客はパペティアを意識することなくタングに集中できるんだそうです。このうぶちゃんの表情も、うぶちゃん自身がたとえばベンやボリンジャーに表情を向けているわけじゃないからこそ、タングを通してうぶちゃんの表情を認めることができるんだなと気付きました。だから、パペティアとパペットが一体となって「タング」として舞台上に存在できるわけです。凄いマジックだなって思いました。

うぶちゃんだけじゃなく渡邊さんも結構表情が柔軟に動いていて、こっちのペアは本当に凄く人間的なタングになっている印象がありました。だから、うぶちゃん&渡邊さんタングは人間の子供のような愛しさとリアルさがあるのかもしれません。最初こそ凄く機械的だから、時間が経つごとにどんどん人間らしくなっていくという変化も顕著で、よりタングの成長を感じられるんだと思います。本当にこれは演じる俳優さんによって印象が大きく変わっていくので、観ていて楽しいポイントでもありました。

うぶちゃんの幼い声の出し方も本当に可愛くて、人間の子供みたいでキュンとなりましたし、タングに対しても愛嬌を感じながら見守り続けることができました。最後のほうで感情の振れ幅が大きくなって人間らしく生きているタングを観られるのも涙腺崩壊ポイントですし、どこをとっても愛しさでいっぱいでした。

今回もうぶちゃんタングの表情に泣かされましたしたくさん笑わせられましたしいっぱい元気をもらえました。うぶちゃん&渡邊さんペアのタングに出会えて幸せです。こうして最後に堪能できて嬉しかったです!

エイミー:鳥原ゆきみ

配信を観ていたらゆきみさんの美しさが映像からでも恐ろしいほど伝わってきてビビりました。そして、エイミーって舞台奥のほうでお芝居することが結構あるので、映像で表情がアップになっているのを観れてここはこんな表情してたんだぁ…とか色々な発見ができて嬉しかったです。そういった発見を経ての今回の観劇は、より一層ゆきみさんのことが愛しく感じられました。表情が多彩だしお芝居はリアルだし、すっごく生々しくエイミーが存在していてゆきみさんの演技力の高さを改めて実感しました。

今回はテイクアウト用のコーヒーをタングに引っ張られて「ちょっと!やめなさい!」って怒っていて、フラストレーションめっちゃ溜まってそうでした(笑)毎回ここのやりとりはオフマイクが辛辣で面白かったですし、本当にゆきみさんのオフマイクはどこのシーンでも聴いていてめっちゃ面白かったです。仕草にしても凄く自由で、こんなに伸び伸びと楽しくお芝居されている姿を観れて幸せでした。ゆきみさんがここまで魅力的な方だとは思わなかったからこそ、より一層ゆきみさんのお芝居に引き込まれました。知れば知るほど好きになっていった女優さんです。

また、序盤はベンに対してもかなり冷たいし厳しい一面を見せますがどんどん物語が進むにつれて表情が穏やかになっていくのも印象的でした。ベンが歌っていたように、髪をきつく縛り上げてブラックコーヒーだけを飲んで仕事に向かうエイミーのときは常に目をキッと吊り上げていて心に余裕のなさそうな表情をしていました。語尾も強いし、時間を無駄にしないように常にきびきびと動いています。それが、時間が経過していくごとに優しい顔つきになっていって声色も柔らかくなっていくのが、エイミーのベンに対する気持ちの変化にも感じられて凄くグッと来ました。服装もね、最初はカチッとしたスーツを着ているけど徐々にゆったりした服になっていって、これもエイミーの心の変化の表れなんだと思います。

ベンと電話をしているときのゆきみさんエイミーの表情が慈愛に満ちていて、ベンへの愛情を感じられました。「旅を続けているのね。あなたは前を向いているんだ」と嬉しそうにしながら、離婚届を送ると言って電話を切ったときの切なそうな表情への変化も凄かったです。ゆきみさんの何が凄いって表情と台詞の表現力です。本当に凄く生々しいんですよね。なのに全然嫌味がなくて、寄り添いながら観ることができるのもさすがだなと思いました。だからこそ、ベンと同じようにゆきみさんエイミーについつい恋してしまうんだと思います。

そしてまたラストのベンと復縁するシーンではボロボロに泣いていて、それも愛しかったです。なんでこんなに泣いちゃうんですかね、可愛い…。ゆきみさんエイミーはベンに初めて告白されたときやプロポーズされたときもきっと大号泣してますよ。そういう女性のリアリティも、お芝居でありながらゆきみさん自身のベンへの想いも溢れるので凄く心にダイレクトに伝わるんだと思いました。今回もすっごく愛しい泣き虫エイミーでした。こうしてゆきみさんに出会えたこともゆきみさんのお芝居を堪能できたことも大きな宝物です。すっごく大好きな女優さんになりました!

ボリンジャー:野中万寿夫

万寿夫さんのボリンジャーは観れば観るほど味があっていいなぁ…と思えました。万寿夫さん自身の持つ不気味でダークなオーラがより一層ボリンジャーの卑劣さを強調していましたし、感情が分かりやすい反面読み取れない部分もあるからこそ、人間に対してもアンドロイドやロボットに対しても冷徹であるといった設定にも説得力がありました。一見人当たりが良さそうで気さくな感じがするのに実は…というところはやっぱりフロローやスカーを彷彿とさせます。とにかく悪役を演じるのが上手だなと改めて思いました。

その一方で、ベンのお父さんやパイロットなど明るい役も演じていて、そのお芝居や佇まいの振れ幅の大きさにも驚かされました。中でも、ボリンジャーという悪役を演じた俳優さんがベンのお父さんも演じるって凄いなって思うんですよね。ボリンジャーは付け髭とメガネをしているものの、誰が観ても同一人物が演じているって分かります。なのに、観ていると「同じ人だ」とは思うことなく観れる。凄く不思議だなって感じました。万寿夫さんの陽と陰のお芝居がそれぞれ効いているのもあるかもしれません。

タングを生み出したパパ、そしてベンのパパ。同じ「親」なのに全然生き方も考え方も違う人物です。それを万寿夫さんが演じることにきっと何かしらの意味があるんだろうなと思います。親の育て方によって子供の未来は大きく変わるということや、人の愛情を受けることがどれほど恵まれたことかをより如実に描くための意図的な演出なのかな。そういったことを考えながら観劇するだけでも、ボリンジャーとベンのパパとで演じ分けをされている万寿夫さんのお芝居を楽しく観ることができます。

そして万寿夫さんと言えば「TOKYO ELECTRIC TOWN」のダンスも凄く可愛らしくて毎回観ていました。あんなに万寿夫さんが踊れるっていうことも衝撃でしたし、ハローハローって歌いながらぴょんぴょん跳ねてる姿がとても可愛かったです。ここだけに限らず、色んな万寿夫さんのお芝居や姿を堪能することができて楽しかったです!本当に貴重でした。

カトウ:萩原隆匡

いつ観ても萩原さんって安定しているので凄いなぁ…って思います。そして役の演じわけが凄い!どの役を観ても同一人物とは思えません。

その中で特筆するのはやっぱりカトウです。日本人らしい謙虚さと貧弱さ、そしてエリートのようなスマートさを持ち合わせていてすっごくカトウにピッタリだなと改めて実感しました。スーツ姿も似合うし、実際に大企業にいそうなエリート感があって、萩原さん以外に演じられる人いないんじゃないかと思います。とにかくかっこいいし、全面的に信頼したいと思えるような優しさも感じられました。なのに、リジーのことをいじられたときの反応はめちゃくちゃ可愛くて、そのギャップもたまりません。

実際、原作のカトウも凄く頼りになる人物で何度もベンやタングを助ける存在となってくれます。そういった舞台では描かれていない今後のカトウの姿すらも想像させられるような萩原さんの佇まいを観ていると、続編のカトウも観たいと思わされました。

そして、タングに対して優しく接する姿、タングに特別な想いを抱いているベンを見つめる時の表情、「絆を信じて」の歌い出しの「不思議だね」の歌声…どれも涙を誘います。萩原さんってなんでこんな優しい歌い方もできるんだろうって毎回思うし、本当に表現力が凄いです。本当にロボットを愛していて、ベンの力にもなってあげたいという心からの思いが伝わってくるようでした。

萩原さんの何が凄いって歌の表現力です。ただ歌が上手いだけじゃなくて、そのときそのキャラクターがどう感じていて何を伝えたいのかが凄く伝わってくるんですよね。だからこそ、カトウの苦悩も喜びもダイレクトに伝わってきて心を揺さぶられるんだろうなと思いました。「絆を信じて」は萩原さんの歌声もあって、大号泣ソングです。

リジー:相原萌

萌さんをこんなにガッツリと観たのってこの作品が初めてだったので、お芝居に歌にダンスに…と多方面で堪能できました。

CAだったりアンドロイドだったり秋葉原のアイドル・MEAだったり色んな役で観られましたけど、どれも可愛くてかっこよくて魅力でいっぱいでした。特に「ラブダイバー」のアンドロイドは凄くスタイル抜群で色っぽさも全開でダンスもかっこよくて…と魅力全開。ついつい目を引いてしまうくらいのキレッキレのダンスを観ていると、萌さんってやっぱりダンサーさんだなぁ…って思わされます。本当にかっこよかったです。

そしてリジーのお芝居も凄く可愛らしくて、親近感を抱かせるような距離感のお姉さんって感じで素敵でした。気さくで明るくて、あのクシャッとした笑顔は誰しもを虜にすること間違いありません。でも一方でカイルのことを話すときは一気に表情が曇って、その落差にもハッとさせられました。タングがカイルのチップを埋め込んでメモリーを共有しながら歌っているのを聞いて、泣きそうな表情でカイルを見つめていて、つられて泣きそうになりました。リジーが心からカイルのことを愛していて家族だと思っているのがその表情から伝わってきましたし、そのあとに歌う「グッボイ、カイル、はじめまして」の優しい笑顔にも泣かされそうになります。

ロボットとはいえ、やっぱりペットも大事な家族なんだってことはどの世界でも同じなんだなって共感できましたし、萌さんの自然な表情の変化にも凄く魅力を感じられました。ここのリジーとカイルのシーンはペットを飼ったことがある人なら誰でも泣けると思います。それこそリジーがカイルのオーナーでも偉大な研究者でもなく、1人の飼い主として普遍的に描かれているからこそでしょう。萌さんのリジーとしてのお芝居も本当に魅力的だと感じました。

そしてラストでカトウと一緒にやってくるのも凄くニヤニヤポイントです。もっと本編でカトウとリジーの絡みも観たかったです。萩原さんと萌さんのスタイリッシュカップルもお似合いで素敵ですよね〜。

ブライオニー:加藤あゆ美

あゆ美さんのことはこの作品を通してあらゆる一面を知ることができて、すっごく大好きになりました。お芝居も上手で歌も上手でダンスも上手って、オールマイティすぎて天才としか言いようがありません。ここにあゆ美さん出てたけどここもにも出てる!ってなるくらい、ほぼ出ずっぱりな方でしたけど、どの役もまるで別人みたいに色味の違うお芝居をされていたので本当に凄いなって思いました。

ブライオニーのときは気が強めで明るくて物事をハッキリと言える姉御肌っぽさを全面に出していて、何だかんだでベンのことを凄く気にかけている優しいお姉さんでした。ガーデンパーティーに相応しくない服を着てきたベンの肩を思いっきり叩いてたのは笑いましたけど、時々厳しさも見せつつ、でも大事な弟を愛している一面が2幕ラストのベンを見つめる表情から伝わってきます。マジでお母さんみたいでした。一方でデイブとのバカップルっぷりも楽しく演じられていて、観ていて面白かったです。

そしてあゆ美さんは「ラブダイバー」でも「TOKYO ELECTRIC TOWN」でもバリバリに踊っている姿が印象的で、ついつい観てしまいました。ダンサーさんたちと一緒になって踊ってる姿がとてもかっこよかった。何より、満面の笑みで踊ってるのが好印象で素敵だったんですよね。あの笑顔は人を幸せにしますよ…。あゆ美さんの人の良さが伝わってくる佇まいで、観れば観るほど好きになりました。

マジでこの作品はあゆ美さん堪能作品でもありました。あゆ美さんのあらゆる魅力を堪能できて嬉しかったです!

観劇の感想・考察

気になったポイントについて書いていきます。

ベンとエイミーの関係性について語りたい

ベンとエイミーの関係性は原作と舞台とで結構違います。原作はよりリアルで大人向けな感じですが、舞台版は凄く温かくてマイルドになっているということは以前ブログにも書きました。それでも、23日分配信の幕間トークコーナーで岡村美南さんが話されていた「エイミーの一言が凄く生々しい」という部分を聞いて、改めて舞台版のベンとエイミーについて理解し直そうと思い、こうして唐突に語り出しました(笑)

エイミーがベンに言い放つ「あなたは何一つ成し遂げたことがない、何一つ!」という台詞は、ベンを一番傷つけると分かっていながらエイミーがその言葉をあえて選んだという設定だそうです。

その言葉を聞いたベンが「その通りだね」と否定せずにエイミーの言葉を受け入れようとすると、エイミーが「どうして頷くのよ」とさらに落胆するように言います。そしてそれに対しベンは「それが望みなんだろ?」と聞き、「そういうところよ!」とエイミーに言い返されてしまいます。エイミーもきっとこのとき心に余裕があればもう少し冷静に物事を考えられたと思うんですけど、頭に血がのぼっていたし積もり積もった不満が爆発してしまって、咄嗟に離婚を告げてしまったんだと思います。でも、本当は止めてほしかった。彼の口から否定の言葉を聞きたかった。そういう女心もきっとあるはずです。

こうしたやりとりは岡村さんもおっしゃってたように凄く生々しくて、舞台だからこそ見せられるリアリティと緊迫さだなと感じました。男女の価値観のすれ違いも絶妙に描かれているし、現代・近未来が物語となっているからこそ「分かる~~~!」と親近感を持ちながらベンとエイミーの関係性に引き込まれていくんだと思います。本当はお互い惹かれ合っていながら、もう一度やり直したい夫と別れを切り出したのにこれで良かったのか迷っている妻のそれぞれの描写も、凄く興味を持ちながら観ることができました。

ベンは元々温かい家庭で育ってきた男性です。でも事故で両親を失って、その喪失感からずっと抜け出せずにいました。一方のエイミーは4人兄弟の末っ子として生まれたために家族から疎外され続け、愛情を受けずに育ってきた女性。そのため自分のことは自分で養おうと自力で逞しくなっていきました。お互い大きな傷を抱えているのは同じだけど、つらい経験を経て前を向いて歩いていけたのはエイミーだけです。ベンはずっと前を向けずに立ち止まったまま。

だから、エイミーは「人生はやり直せる」「人はいつでも生まれ変われる」ということを身を持って知っていたでしょうし、彼にそのことを気付かせる意味でも辛辣な言葉を投げかけたのかなと思います。もちろん「言わなくても分かってもらえる」という価値観をベンに押し付けていたのはあまりよろしくないけど、ベンには前を向いて歩き出してほしかったのが本心でしょう。逆に、ベンもエイミーに甘えてばかりでした。

ベンとエイミー、それぞれに足りなかったのは相手を理解する気持ちだと思っています。ベンはエイミーが温かい家庭を望んでいて「家族になりたかった」という彼女の願いを理解できませんでした。逆にエイミーは、ベンが前に進めないほどの喪失感の大きさを本当の意味で理解できていなかった気がします。だからこそお互い別れたあとにベンはタングと旅を続け、エイミーはロジャーとの交際を考えるようになりますが、そこで初めてお互いがお互いを理解できるようになったんだと思います。

ベンはタングを通して、「家族になりたい」という気持ちを抱くようになりました。それはきっとエイミーがベンに対して感じていたものと同じ想い。そしてエイミーもまた、他の人と付き合おうとしてみたけどベンを失ったことへの寂しさを強く感じることになり、大きな喪失感を味わいました。こうしてベンとエイミーはようやくお互いのことを理解できるようになって、「あなたじゃないとダメ」だと思えるようになった…っていう、この構成が凄く素敵だなと感じました。

男女の価値観の違いや恋愛模様が生々しく描かれているのに、その後に紡がれる2人の物語は凄く明るくて温かくて、そこが舞台のマイルドさを引き出していると思います。原作ではエイミーがロジャーとも交際を始めてしまいますし、ベンもすぐにはエイミーと復縁できずに中途半端な関係を続けることになります。だけど舞台はしっかりベンとエイミーの物語として軸をブレさせることなく、彼らに足りなかったものを気付かせて成長させて前を向かせ、幸せの形を綺麗に描きました。だから非常にロマンチックだし、最後にエイミーが「あなたじゃないとダメなの…」って泣き出しちゃうのも説得力があって、ベンとエイミーの関係にも好感を持てるんだと思います。

生々しさとドラマ性が上手く融合しているのが演出の凄いところだなと感じましたし、だからより舞台版のベンとエイミーに愛しさを感じられるんだなぁ…って感動しました。別れたことで失ったものの大切さに気付いて、今自分が何をすべきなのかがようやく見えてくる。そうして成し遂げてようやく前を向けたベンと、1人だけ前に進み続けるんじゃなくてベンと一緒に歩こうと決めたエイミー。もう間違いなく素敵な夫婦になりますし、素敵なパパとママになります…。田邊さんとゆきみさんが演じてくださって本当に良かったです。この2人じゃなければ、ここまで魅力的なチェンバーズ夫妻にはならなかったです。

別れたあとでも電話で何度もやりとりをして、お互いの近況を報告し合って、嬉しそうにして…。そうやってお互いがお互いをずっと好きでいるっていう様子も舞台ではしっかり描かれているので、本当にぬかりないです。「やっぱり好きなんじゃん」ってなりましたし、可愛いなぁって思いました。この作品と出会ったことで、チェンバーズ夫妻が大好きになりました。原作では結構リアルな夫婦の在り方が描かれていたけど、舞台版でこんな素敵にベンとエイミーの恋愛模様を描いてくださって感謝です…!良い改変でした。

まとめ

あっという間の『ロボット・イン・ザ・ガーデン』東京公演前期でした。『マンマ・ミーア!』が福岡でやっていなければ千秋楽も行ったんだけど、こればかりはご贔屓への想いもあるので両立できなくて残念。だけど、本当に悔いはないです。こうして短い期間でしたけどたくさん観に行くことができましたし、たくさんの素敵な俳優さんたちのお芝居に触れることができました。

こんな素敵な作品を劇団四季が作ったっていうことが素晴らしいしファンとしても誇りです。素敵な作品に出会えて、心から幸せです。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』は「普通に生きている人にも何かしらの祝福を」という願いが込められた作品だそうで、まさにそれを強く感じられた公演でした。至るところに散りばめられている美しい台詞の数々、演出の数々…。どれも美しくて温かくて、観るたびに涙を誘いました。本当にハイレベルな舞台だったと思います。マジで大好きな作品になりました。

大好きなうぶちゃん&渡邊さんタングは8回中5回。いっぱい観られて嬉しかったです!

そして。

この作品を通して鳥原ゆきみさんのお芝居を観ることもできて幸せでした。毎回すっごく魅力的なお芝居をされていて、今回も愛しさでいっぱいのエイミーに出逢えました。本当にかけがえのない出逢いです。ゆきみさんのことはこれからもたくさん観続けたいなと思いました。

そんなわけで、たくさんの出逢いがあった『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。私も大大大好きな作品になりました。また来年の公演もたくさん観に行きたいと思います!

東京公演前期、誰一人欠けることなく無事に千秋楽を迎えられますように!

最後は素敵なPVでお別れ!

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