キャストの感想
キャストの感想です!
オペラ座の怪人:清水大星
10月末にデビューしたばかりなのでまだ2ヶ月ちょっとしかファントムを演じられていない清水さんですが、すでにファントムという役をものにしているかのような貫禄がありました。お芝居に関してまだこれからかなぁ…と思う点も多々ありましたが、清水さんなりの解釈でファントムを演じられているのがとても伝わってきたので観察するのが楽しかったです。
4月に『The Bridge~歌の架け橋~』で清水さんのMOTNを聴いたときに「いつかファントムやってほしい」とブログに書いていたのですが、本当に実現するとは思わなかったし、実現してくれて嬉しかったです。当時MOTNを聴いたときに私が抱いていた清水さんファントムの印象とは結構異なっていましたが、これまでにないファントム像を確立していたし、清水さんの良さと魅力が引き立っていたのでデビューしてくれて本当に良かったと思いました。
最初楽屋のシーンで鏡に映った清水さんファントムを観たときに「こんな顔してたっけ?」と驚いたのですが、考えてみるとヒゲがない清水さんって観るの初めてだったりする…?つぶらな瞳をしていて可愛らしい…とすら思ってしまいました(笑)でもすらっとした背の高さと端正な顔立ちから、「醜く歪んだ怪物」とは思えないほどかっこよさが滲み出ていた二枚目ファントム。だからこそ顔が醜く爛れてしまったことに相当なコンプレックスを抱いてしまったのかなと感じました。
相当頭が良さそうだし理性的に物事を考えられるような感じもするし、多分完璧主義者なんだろうなと思います。凄くキチッとしていて、ただただ才能に溢れているだけじゃないなぁ…というのがうかがえました。でも完璧主義者ゆえに人との距離感を掴むのが難しそう。この世で信じられるのは自分だけ、みたいな感じで容姿に関係なく周りとの交流を一切遮断していて、そういった孤独さから天才ゆえの悩みを抱えていそうなファントムでした。気難しそうな人。
洋輔さんファントムのように置いて行かれた子供のような寂しさを抱いているわけでもなく誰かの愛情を欲しているわけでもなく。クリスティーヌのことも正直、彼女の愛を欲しているというよりも彼女を利用して自分の中に足りないピースをはめ込むことでパズルを完成させようとしているかのような…。そういった不気味さがあって、とても怖かったです。
何より清水さんファントムの一番怖いところは、怒らせると感情をコントロールするネジが外れてしまうところ。クリスティーヌに仮面を外されてしまった瞬間、一瞬ハッとなって思考が停止して、それからじわじわと理解が追い付いて怒りが込み上げて彼女を責めるといった動きをしていました。とにかく怒鳴り散らかすし叫ぶし、勢いと迫力が凄かったです。相当容姿にコンプレックスを抱いているんだな…というのが伝わってきました。
「業火に焼かれた~」って地面に這いつくばりながら歌うところも、憎しみを込めるように歌っていて、ところどころ声が力んでいたので、かなりのトラウマだったこともうかがえました。苦しみながらずっと生きてきたんだな…というのが死ぬほど伝わってくるからつらい。でもそれ以上に怖すぎてなかなか感情移入ができない。常人にはきっと理解できない次元にいる天才なんだなぁ…というのをまさに体現しているようでした。そういう意味で、人間味があってこちらの母性をくすぐってくる洋輔さんファントムとは真逆のタイプかもしれませんね。
衝撃が大きかった1幕でしたが、2幕はそれの倍以上の衝撃でした。冒頭でもお伝えしたように、とにかくサイコパスだったんです。完璧な人ほど頭のネジが外れた瞬間のぶっ壊れ方っておかしくなりそうなイメージがありますが、まさにそんな感じ。
クリスティーヌへの迫り方も尋常じゃなかったですが、ラウルがやってきたと分かった瞬間にニヤッと笑って声が弾んで愉快そうにしていたのが怖すぎました。待ってましたと言わんばかりに悦びに溢れた佇まいをしていて、人を殺そうとすることにこんなにも快感を示している!?と衝撃を受けまくってしまいました。
苦痛の表情を浮かべるラウルを見て「ざまあみろ!」とでも言うかのように嘲笑する清水さんファントム。鳥肌とかそんな生易しいものじゃなく、全身が悪寒で震えましたよね。ずっと計画していたんだろうな…と思ってしまうほど、用意周到。この瞬間、私はとんでもない思い違いをしていたことに気付かされました。
完璧主義者の人間だと思っていた清水さんファントムは、ヒトのカタチをした悪魔だったんだ…と。完全に心が歪んでヴィランの道を全うする清水さんファントムの全身全霊さに凄く怯えてしまったほどです。このシーン、今までは結構普通に観ていたんですよ。どうせフィクションだしなぁ…という気持ちで。でも今回は本気で怖かったです。ファントムという存在を本気で怖いと思った瞬間でした。清水さんファントムのお芝居の振れ幅が凄すぎて圧巻。そりゃ怪人って呼ばれますわ!
それからクリスティーヌに敵意を向けられ、狼狽するものの己の中の憎しみはとどまることを知らず。クリスティーヌに向かって「選べ!」と放つ瞬間、じっくりと立ち上がって理性で怒りを一生懸命沈めながら必死にその言葉を選んだんだろうな…というのが伝わってきました。
クリスティーヌに選ばれることはないと分かった以降の清水さんファントムのお芝居は悲痛でした。涙ボロボロで鼻水もダラダラで顔中の水分が全部外に出てしまっている状態で、ずっと泣いていました。クリスティーヌとラウルに「行ってくれ!お願いだ!」と叫ぶのも全身全霊さが伝わってきて、完璧主義者ゆえに自分が今まで築き上げてきたものが崩れ去ることに耐えられなくなったような印象を受けました。同時に、自分が人としての道を踏み違えてしまったことにも激しい後悔を抱いていたようにも思えます。自分ひとりでは抱えきれなくなってしまうほどの莫大の感情。
感情を大爆発させまくった直後に歌う「マスカレード」の1フレーズは、何も残らなかった自分に対する無念と喪失感とでいっぱいの歌声でしたし、クリスティーヌに向けて言う「I love you」は憑き物が取れてさっぱりしたまっさらな状態で歌っていましたし、さっきまでのヴィランとしての佇まいはどこへ行った…という感じでした。
個人的に一番グッと来たのは、去っていくクリスティーヌをずーっと追い続けてその場から動けなくなってしまった清水さんファントムの姿です。上手側にクリスティーヌは捌けていきますが、その後ろ姿をずっと目で追い続けていたんだろうな…と思うくらい、清水さんファントムが上手側をずっと見続けていました。もういいよと声をかけてあげたくなるくらい、ずっと。最後はクリスティーヌが脱いだヴェールを手繰り寄せて、不器用に泣いていた姿も印象的でした。
完璧主義者ゆえの苦悩、完璧主義者ゆえの不器用さ、完璧主義者ゆえの孤独。最後のその姿を観て、すべてが繋がったような気がしました。清水さんファントムは不器用だったんだな…って。2幕ラストは感情が揺さぶられまくりで大変でした。でも同時にこんな魅力的なファントムが誕生したんだ…と嬉しくなりました。何もかもが新鮮で観るのが楽しかったし、あと数ヶ月、半年、1年…と演じていけばさらに素敵なファントムになることは間違いないだろうなとも思いました。やっと清水さんファントムに巡り会うことができて良かったです!
クリスティーヌ・ダーエ:山本紗衣
久々の紗衣さんクリス、やはり掴みどころのない不思議な魅力があって良かったです。紗衣さんクリスも凡人ではない煌めいたものを持っているので、そういう意味では清水さんファントムとどこか似ているところがあるかもしれません。凄くふわふわとしていて芯が強くて、掴みどころがないのに歌い出すと途端にオーラを抜群に発揮する人。やっぱり紗衣さんは凄いです。
TOMを聴いていたときに、紗衣さんの歌と表情の表現力が素晴らしいなぁ…と改めて思いました。たったこの1曲だけでクリスティーヌのシンデレラストーリーが手に取るように分かるし、だんだん歌声に自信がみなぎっていくのが伝わってくるし、未来がブワッと開けたような明るさが感じられて、紗衣さんクリスのTOMは至高だなぁ~と実感しました。久々に聴けて嬉しかったです。
それで言うと紗衣さんクリスの墓場は世界遺産レベルの神曲ですね。いつ聴いても何度聴いても心が浄化されるような美しさで胸がいっぱいになるのですが、久々に聴くとまるで紗衣さんクリスが天使か女神かのように思えました。こちらの煩悩を一切取り払ってくれて、天使の羽に包まれているかのような温かさと柔らかさでいっぱいになって、凄く神聖な気持ちになりました。ただただ歌が上手いとかそういう話ではなくて、このふわふわした感覚がまさにファントムが彼女の歌声に聴き惚れた理由なんだろうな…って納得できます。言葉では言い表せない美しさ。本当に素晴らしくて涙が出そうになりました。
そして清水さんファントムとの対峙。PONRではドンファンの中身がファントムだと気付いてから、腕を引っ張られて引きずられていく瞬間に拒絶するように首を横に振って逃げようとしていた姿がとても印象的でした。それから身勝手なファントムに対してどんどん怒りが込み上げてきて、目が血走るかのように力がこもって、キッと睨んでいた表情も印象深かったです。紗衣さんクリスってここまでファントムに敵意向けていたっけ!?と驚いてしまいました。なんかね、全体的に紗衣さんクリスは以前よりもファントムに向ける怒りの感情が露わになったように感じます。
それは清水さんファントムが容赦なく怒りの感情をクリスティーヌに向けるからなのかな…とも思ったり。ここ最近の紗衣さんクリスのお芝居をしっかり観ているわけではないので比較できませんが、きっと清水さんファントムのお芝居が紗衣さんクリスのお芝居に少なからず影響を与えているんじゃないかなぁ…って。地下室に連れていかれてからも紗衣さんクリスはとても強くて勇敢でした。だからバチバチに対峙する清水さんファントムと紗衣さんクリスのやりとりは見応えがあって面白かったです。
あと以前観たときと変わったなーと思った点で言うと、ファントムがロウソクを持ってラウルに近づき、首を絞めているロープを断ち切るシーン。以前は怯えるように目を背けていた紗衣さんクリスでしたが、今回は目を背けずに見続けていた…?私もちゃんと観ていたわけではないので思い違いかもしれませんが、ずっとファントムを睨んでいたようにも感じました。とにかくファントムに対する憎悪の感情が凄くて、ラウルが助かったことに気付くのも少し遅れていたくらいです。それだけ憎んでいた相手だからこそラウルを助けたことに感情が完全に迷子になってしまっていたのが分かりました。
ファントムに指輪を返しに行くところも、完全に彼の気持ちに応えることはない固い決意をした表情をしていましたし、全体的に今回の紗衣さんクリスはとても手強い印象でした。凄く強かで守られるだけの存在じゃないなって。この3ヶ月の間に紗衣さん自身がお芝居を変えたのかどうかは分かりませんが、以前とガラッと印象が変わっていたので観るのがとても楽しかったです。
相変わらずカテコはずっとお客さんを見続けていて頭を下げるのが他の誰よりも遅いし、上手側に捌けるときは幕が閉じてもずーっと手を振り続けてくれていたし、お客さん大好きなところも健在で可愛すぎました。やっぱり紗衣さんクリス大好きです!進化した紗衣さんクリスを観られて幸せでした!
ラウル・シャニュイ子爵:加藤迪
迪さんラウルもかなり久しぶりな気がする…!相変わらずかっこよくて頼れるお兄ちゃんっぽさがあって素敵でした。感情豊かだしちょっと子供っぽいところもあって可愛らしい点もあり、観れば観るほど人として魅力的だなと感じてしまいます。
紗衣さんクリスとの組み合わせで観るのもかなり久しぶりだと思うのですが、やはりこの2人のバランスは凄くいいなーと思いました。なんというか、対等な感じ。守ってもらうとか守ってあげるとかそういうんじゃなくて、お互いがお互いを守ろうとしている感じがすっごく素敵だなと思いました。紗衣さんクリスがとても逞しいから、ラウルがそこまで逞しく見えないっていうと語弊なんですけど、ただクリスティーヌをか弱い存在にしないのが迪さんラウルの魅力でもあります。だから凄く釣り合いが取れていてバランスいいなーって感じました。
あと、ほんの一瞬なんですけどイルムートで5番ボックスに座っている迪さんラウルが、ファントムの存在を確認するために上を見上げた瞬間、顔が高橋一生くんに見えました(笑)なんとなく似てるか…?(どうでもいい)
曲名忘れましたけどマネ2のシーンでクリスティーヌを説得しようと試みるときの迪さんラウルの力強い歌声も最高でしたね…。以前はこんなに力強く歌っていたっけ…ってくらい、凄く頼りになる歌声でした。紗衣さんクリスが相当ファントムに対する憎悪の気持ちと尊敬の気持ちとの狭間で雁字搦めになっていたからこその正しい道に引き戻してあげたい一心での力強い歌声だったのかもしれません。ちょっと迪さんラウルかっこよすぎて困っちゃいますネ。
マダム・ジリー:木村智秋
木村さんマダムも久しぶりですが、前回観たときよりかなりミステリアスな雰囲気になっていました。木村さんマダムは前々からミステリアス要素が強かったですけど、今回はさらに何を考えているのか分からない瞬間が多かったです。
特に、2幕の「マスカレード」直後のラウルとのシーンはお芝居の雰囲気が大きく変わっていました。以前は、過去のファントムの話をしながらも怯えるような表情をしていたのですが、今回はうっすら笑いながら歌っていたので思わずゾッとしました。ファントムに対して憎悪の感情があるというよりも、どこか尊敬の念を抱いているようにも感じられてヒエッとなっちゃいました(笑)意図的な変化なのか、私がそう見えてしまっただけなのかは分かりませんが、どこまでもミステリアスな木村さんマダムは相変わらず魅力的で良かったです。
メグやクリスティーヌを必死に守ろうとする姿勢も素敵でしたし、ミステリアスだからこそふとしたときに見せる優しさにギャップを感じてグッと来てしまいます。年内最後に大好きな木村さんマダムを観られて最高でした!
まとめ
2021年最高の観劇納めができました!久々に観るとやっぱりオペラ座いいなぁってなりましたし、音楽もストーリーも美しすぎて感情揺さぶられまくりで楽しかったです。
自分にとって観劇ってどんな意味を持つんだろうと考えるときがあるのですが、劇場は感情を豊かにしてくれる場所なんだな…って思いました。音楽を聴けば自然と涙が溢れて、ストーリーを追っていけば誰かに感情移入して胸が苦しくなって、こんなに短時間で感情がぐわんぐわんと揺らぐことは普段生活しているとなかなか経験できないと思うんです。だから、やっぱり生の舞台を観るって凄く貴重な経験ができる時間なんだなというのを強く実感できた観劇でした。
今年も色んなことがあった中で、「今」を大切にするべきということを何度も痛感しましたし、今回も年内最後の観劇としてオペラ座を選んで、たくさんの感情でごちゃごちゃになって心を豊かにできて良かったです。観劇するかどうかも悩んでいたけど、観劇を決めて正解でした。
2021年の総括は別の記事でやろうと思っていますが、観劇レポはこの記事で年内最後となります。毎度長文だし何書いてるか分からないし何言いたいのかも分からないようなレポを読んでくださっていた皆さん、本当にありがとうございました。来年もたくさん観劇するつもりだし、そのたびにレポを載せていくつもりなので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
ということで最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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